楕円に内接する平行四辺形 – 1990年東大 数学 第5問

楕円はちょっとイヤ(Bronisław DróżkaによるPixabayからの画像)

1990年東大 数学 第5問は円に外接する平行四辺形の外側に楕円を外接させろと言う、文字通り無理難題です。問題文は以下の通りで、東大2次試験からの引用です。

 円 x^2 + y^2 = 1 C0,だ円 \displaystyle\frac{x^2}{a^2}+\displaystyle\frac{y^2}{b^2}= 1 (a > 0, b > 0) C1 とする.C1 上のどんな点 P に対しても,P を頂点にもち C0 に外接して C1 に内接する平行四辺形が存在するための必要十分条件を ab で表せ.

 どうやら楕円の中に円があって、外側の楕円に外接し、内側の円に内接する平行四辺形が作れるように ab を決めてくれ、といった内容のようです。でもそんなことが可能なのだろうか(図1)。

図1

 簡単に何とかなるような気が全くしませんが、1990年はもっと難しい問題が出題されているので「逃げちゃだめだ」。ここは辛抱して食らいついていきましょう。なお、本稿の内容は東大が発表したものではありません。

1990年東大 数学 第5問 の解法

円に外接して楕円に内接する平行四辺形はどんなものなのか考える

 まず、円に外接する平行四辺形といったものが本当に実在するのか、考えてみます。

 正方形はOKです。でも長方形はNGです。ひし形なら結構いけるのでは(図2)?

図2

 実際、円に外接する平行四辺形 ▱ABCD の各頂点 A,B,C,D から円に下した接線の長さをそれぞれ p,q,r,s と置くとき、

AB = CD
AD = BC

なので

p + q = r + s
p + s = q + r

ですが、辺々引いて

qs = sq

すなわち

q = s

が成り立ち、したがって

p = r

が成り立ちます。ゆえに

AB = AD

が成り立つので、 ▱ABCD はひし形です。すなわち、平行四辺形が円に外接する必要条件はそれがひし形であることです。

 一方、楕円に内接する平行四辺形がひし形でよいということが分かっていれば、これは何とかなりそうです。実際、楕円 C1 上の点 P が任意に与えられたとき、原点 O を通り OP に直交する直線と C1 の交点を Q と置き、 P,QO を挟んで対称の位置にある点を P’,Q’ と置くと、四角形 PQQ’P’ は明らかにC1 に内接するひし形です(図3)。

図3

 さらに、そのようなひし形は明らかに一意に決まります。

必要十分条件を平行四辺形の幾何学的性質で表現する

 設問の条件を満たす必要十分条件を a,b で表せということですが、 P の座標を (acosθ,bsinθ) ( 0 ≦ θ < 2π ) とおくと平行四辺形の辺の長さなどを ab で表せそうなので、まずは必要十分条件を平行四辺形が満たすべき幾何学的性質で表現できないか、考えてみます。

 設問の条件が成り立つとき、 C0 に外接して C1 に内接する平行四辺形はひし形なので、 C1 上の任意の点 P に隣接する頂点を Q と置くとき、OPOQ が成り立ちます。

 ここで O から PQ に下した垂線の足を H と置くと、接点を H とおくと △POQ ∽ △OHQ なので

\frac{OQ}{PQ} = \frac{OH}{OP}

が成り立ちますが、辺 PQC0 に接するので H が接点であり、 OH = 1 が成り立ちます(図4)。

図4

 よって

\frac{OQ}{PQ} = \frac{1}{OP}

分母を払って

OP \cdot OQ = PQ \cdots (1)

が成り立ちます。

 逆に C1 上の任意の点 P を頂点とし、 C1 に内接するひし形 PQQ’P’ において式(1) が成り立つとき、

 OH = \frac{OP \cdot OQ}{PQ} =1

なので、ひし形 PQQ’P’C0 に外接します。

 したがって設問の条件が成り立つ必要十分条件は、 C1 上の任意の点 P を頂点とし、 C1 に内接するひし形 PQQ’P’ において式(1) が成り立つことです。

必要十分条件を a,b で表す

 式(1) を a,b の恒等式で表せればそれが求める答えなので、各辺の長さを a,b で表すことを目指します。

P の座標を (acosθ,bsinθ) 、 P に隣接する頂点 Q の座標を (acosφ,bsinφ) ( 0 ≦ θ,φ < 2π ) とおくと、 OPOQ は直交します。したがって

 a^2 \cos \theta \cos \phi + b^2 \sin \theta \sin \phi=0

が成り立ちます。

 よって cosθcosφ ≠ 0 のとき

  \tan \theta \tan \phi = - \frac{a^2}{b^2}

です。

 また cosθcosφ = 0 のとき sinθsinφ = 0 ですが、cosθ = 0 ならば sinθ = ±1 なので sinφ = 0 であり、したがって cosφ = ±1 です。cosφ = 0 ならば sinφ = ±1 なので sin θ = 0 であり、したがって cosθ = ±1 です。

 整理すると cosθcosφ = 0 のとき、

cosθ = 0 , sinθ = ±1 かつ cosφ = ±1 , sinφ = 0
または
cosθ = ±1 , sinθ = 0 かつ cosφ = 0 , sinφ = ±1

です。

 θ と φ に上記の関係があるので、式(1) を θ の恒等式に見立てることができそうであり、これが成り立つように a,b の条件が決めることで求める必要十分条件が得られそうです。

 式(1) の両辺を2乗して

OP^2 \cdot OQ^2= PQ^2

を得ますが、 △POQ は直角三角形なので PH2 = OP2 + OQ2 であり、したがって

OP^2 \cdot OQ^2= OP^2 + OQ^2

です。よって

\begin{aligned}
 &(a^2 \cos^2 \theta + b^2 \sin^2 \theta)( a^2 \cos^2 \phi + b^2 \sin^2 \phi) \\
= &(a^2 \cos^2 \theta + b^2 \sin^2 \theta)+( a^2 \cos^2 \phi + b^2 \sin^2 \phi) \\
 & \cdots(2)
\end{aligned}

が成り立ちます。

ここで cosθcosφ ≠ 0 のとき

\begin{aligned}
 & \frac{(a^2  + b^2 \tan^2 \theta)( a^2  + b^2 \tan^2 \phi) } {(1 + \tan^2 \theta )(1 + \tan^2 \phi )}\\
= &\frac{(a^2  + b^2 \tan^2 \theta)}{(1 + \tan^2 \theta )}+ \frac{( a^2 + b^2 \tan^2 \phi) }{(1 + \tan^2 \phi )}\\
\end{aligned}

分母を払って

\begin{aligned}
 & (a^2  + b^2 \tan^2 \theta)( a^2  + b^2 \tan^2 \phi) \\
= & (1 + \tan^2 \phi )(a^2  + b^2 \tan^2 \theta) \\
+ &  (1 + \tan^2 \theta )( a^2 + b^2 \tan^2 \phi) \\
\end{aligned}

ですが、 cosθcosφ ≠ 0 なので sinθsinφ ≠ 0 であり、特に tanθ ≠ 0 です。よって

  \tan \phi = - \frac{a^2}{b^2 \tan \theta }

 が成り立つのでこれを代入して

\begin{aligned}
 & (a^2  + b^2 \tan^2 \theta)( a^2  + b^2  \cdot \frac{a^4}{b ^4 \tan^2 \theta }) \\
= & (1 +  \frac{a^4}{b ^4 \tan^2 \theta } )(a^2  + b^2 \tan^2 \theta) \\
+ &  (1 + \tan^2 \theta )( a^2 + b^2  \cdot \frac{a^4}{b ^4 \tan^2 \theta }) \\
\end{aligned}

分母を払って

\begin{aligned}
 & (a^2  + b^2 \tan^2 \theta)( a^2  b^4\tan^2 \theta+ a^4 b^2)\\
= & (b^4 \tan^2 \theta +  a^4)(a^2  + b^2 \tan^2 \theta) \\
+ &  (1 + \tan^2 \theta ) ( a^2  b^4\tan^2 \theta+ a^4 b^2) \\
\end{aligned}

両辺を a2 + b2tan2θ で割って

\begin{aligned}
 &  a^2 b^2(a^2  + b^2 \tan^2 \theta)\\
= & (b^4 \tan^2 \theta +  a^4) + a^2b^2(1 + \tan^2 \theta )\\
\end{aligned}

tan2θ について整理して

b^2(a^2 +b^2 -a^2b^2) \tan^2 \theta +a^2(a^2+b^2-a^2b^2) = 0

左辺を因数分解して

(a^2 +b^2 -a^2b^2) (b^2 \tan^2 \theta +a^2) = 0

b2tanθ + a2 で割って

a^2 +b^2 - a^2b^2 = 0

を得ます。

 一方cosθcosφ = 0 のとき

cosθ = 0 , sinθ = ±1 かつ cosφ = ±1 , sinφ = 0
または
cosθ = ±1 , sinθ = 0 かつ cosφ = 0 , sinφ = ±1

ですが、いずれの場合も式(2) に代入すると

a^2 b^2 = a^2 +b^2 

が成り立ちます。

 したがって式(2) が成り立つならば

a^2 +b^2 - a^2b^2 = 0

が成り立ちますが、明らかに逆も成り立ちます。

 ゆえに設問の条件が成り立つための必要十分条件は

a^2 +b^2 - a^2b^2 = 0

です。

解法のポイント

 まず、問題文中の平行四辺形がひし形であることに気がつくことがポイントです。これに気がつくことができれば、対角線が直交するという条件を駆使して何とかできるのでは、という気がしてきます。

 本問のような恒等式になる条件を求める問題の場合、独立変数は少ないほうが良いので極座標は重宝します。活用するようにしましょう。

東大1990年

Posted by mine_kikaku