循環二次連立方程式に挑め! – 1997年京大 後期 数学 第4問

2023年3月14日

 今回は、3元連立方程式の問題を取り上げます。只の連立方程式ではありません。2次方程式で、しかも変数が循環しています。これは、 1997年京大 後期 数学 第4問 (理系)です。

1997年京大 後期 数学 第4問 とは

 問題文は以下の通りです。

次の連立方程式 (*) を考える。

(*) \left \{ \begin{aligned} & y= 2x^2 - 1 \\ & z=2y^2-1 \\ & x=2z^2-1 \end{aligned} \right.

(1) (x,y,z)=(a,b,c)(*) の実数解であるとき、 |a| \leqq 1 , |b| \leqq 1 ,|c| \leqq 1 を示せ。
(2) (*) は全部で8組の相違なる実数解をもつことを示せ。


 ご覧の通り、連立方程式なのに2次で、しかも変数がぐるりと循環しています。

 この手の問題の解法としては、普通は代入法によって変数を一つにし、微分したりして解の個数を評価しますが、この問題では出来上がる式が8次になってしまい、セオリー通りに進めても答えが出るのかもしれませんが、筆者は1階微分をやったところでくじけました。

 そもそも、スタイリッシュな設問で知られる天下の京大が、べたべたと泥臭く計算させるような問題を出すはずがありません。実際、京大生が選ぶ感動した一問(数学・物理・化学) > 第1回 京都大学 1997年 数学(理系)・後期というページに、素晴らしく洗練された解答が載っています。

小問1の解法

 先のリンク先に載っていますが、背理法を使って解くのが簡単で分かりやすいと思います。

 仮に、|x| > 1 であるとします。すると、

\begin{aligned}
 & y-|x| \\ 
& = 2x^2 - |x| -1  \\
& =(2|x|+1)(|x|-1) > 0
\end{aligned}

であることから、 y > |x| が成り立ちます。同様に、z > y および x > z が成り立つことから、 x > |x| が成り立つことになりますが、これは矛盾なので、 |x| \leqq 1 であることが示せました。同様に、 |y| \leqq 1 および|z| \leqq 1 が成り立ちます。

小問2の解法

1997年京大後期数学大問4 三角関数の2倍角公式による解法

 先のリンク先では、三角関数の2倍角の公式を適用する、という、実に鮮やかな手法で証明しています。元の連立方程式 (*)y=2x^2-1 が、2倍角の公式に似ていることと、 |x| \leqq 1 であるところから、x=\cos \theta と置くと、元の連立方程式 (*) は、以下のような \theta の方程式に変形できます。

\left \{    \begin{aligned}
 & \cos 2\theta= 2 \cos ^2 \theta - 1 \\
 & \cos 4\theta= 2 \cos ^2 2 \theta - 1 \\
  & \cos \theta= 2 \cos ^2 4 \theta - 1 
  \end{aligned}
  \right.

これと、 \cos 8\theta = 2\cos^2 4\theta -1 であることから、

\cos \theta = \cos 8 \theta

が得られます。べき乗項だけでなく、定数項もきれいになくなっているところが、正に驚きです。ここから \theta の、それぞれ異なる具体的な値を8個求められるので、題意は証明できました。

1997年京大 後期 数学 第4問 の対称式を用いた証明

 誠に見事な証明ですが、仮に元の方程式が

  \left \{    \begin{aligned}
 & y= x^2 - 2 \\
 & z=y^2-2 \\
 &  x=z^2-2
 \end{aligned}
 \right. 

であったとすると、これほど簡単には証明できないでしょう。そこで本稿では、変数が循環しているところに着目し、もう少し一般的な手法として、対称式を用いて証明してみます。

重根の確認

 3つある式が同じ形であるところから、重根(と言ってよいのか、つまりは x=y=z である解)の存在が、十分に予想できます。実際、

x=2x^2-1

の2つの解から得られる (x,y,z)=(1,1,1) および (x,y,z)=(-\frac{1}{2},-\frac{1}{2},-\frac{1}{2}) は、確かに元の方程式の解になっています。

 これで、8つの解のうち、2つの存在を証明することが出来ました。

対称式の具体的な値を求める

 元の連立方程式 (*) を変形して、対称式の具体的な値を求めます。

xyz

 まず、(*) の両辺から1を引きます。

  \left \{    \begin{aligned}
 & y-1= 2x^2 - 2 \\
 & z-1=2y^2-2 \\
 &  x-1=2z^2-2
 \end{aligned}
 \right. 

各式の両辺をすべて掛け合わせて、

(x-1)(y-1)(x-1)=8(x-1)(x+1)(y-1)(y+1)(z-1)(z+1)

を得ますが、 x=y=z=1 でない解を探すのであるから、両辺を (x-1)(y-1)(x-1) で割ることが出来て、

(x+1)(y+1)(z+1) = \frac{1}{8} \text{ } \cdots  (1)

を得ます。

 次に、 (*) の両辺に1を足します。

  \left \{    \begin{aligned}
 &  y+1= 2x^2  \\
  & z+1=2y^2\\
 &  x+1=2z^2
  \end{aligned}
   \right. 

辺々掛け合わせて、以下を得ます。

\begin{aligned}
& (x+1)(y+1)(z+1)=8x^2y^2z^2 \\
& \text{ } \cdots (2)
\end{aligned}

 (1)と(2)から、 xyz の値が求められます。

xyz=\pm{\frac{1}{8}} \text{ } \cdots (3)

x+y+zxy+yz+xz

(*) を辺々足し合わせます。

\begin{aligned}
& x+y+z = 2(x^2+y^2+z^2)-3  \\
& \text{    } =2(x+y+z)^2 \\
 & \text{    } -4(xy+yz+xz) -3 \\
& \text{     } \cdots (4)
\end{aligned}

 また、(1)の左辺を展開します。

\begin{aligned}
& xyz \\
 & +xy+yz+xz \\
&+x+y+z+1=\frac{1}{8} \\
&  \text{      } \cdot \cdot \cdot  (5)
\end{aligned}

 (3)、(4)、(5)より、 x+y+zxy+yz+xz に関する、連立方程式が得られます。

 \begin{aligned}
\left \{ 
 \begin{aligned}

&2(x+y+z)^2  \\
&-(x+y+z) \\
& - 4(xy+yz+xz)-3=0  \\
  \\
&(x+y+z) \\
 & +(xy+yz+xz)+\frac{7}{8} \pm{\frac{1}{8}} = 0  \\

\end{aligned}
\right. 
\\
\\
  \text{ } \cdot \cdot \cdot (6)
 \end{aligned}
 

 (6)を解いて、x+y+zxy+yz+xz の値を求めると、以下の表1のように、4種類の値を得ることが出来ます。

対称式値1値2値3値4
x+y+z\frac{1}{2}-10\frac{3}{2}
xy+yz+xz\frac{1}{2}0\frac{3}{4}\frac{3}{4}
xyz\frac{1}{8}\frac{1}{8}\frac{1}{8}\frac{1}{8}
表1

実数解存在の必要条件証明

  (*) の解 (x,y,z) が存在すれば、それは表1の4種類の値から得られる、以下の方程式群の解なので、これらの方程式が1でも -\frac{1}{2} でもない6個の異なる実数根を、 |x| \leqq 1 の範囲に持つことを証明します。

\begin{aligned}
 & f_1(x) = x^3 + \frac{1}{2} x^2 - \frac{1}{2} x - \frac{1}{8}  = 0  \\
& f_2(x) = x^3 +  x^2  - \frac{1}{8} = 0  \\
& f_3(x) = x^3  - \frac{3}{4} x + \frac{1}{8} = 0 \\
& f_4(x) = x^3 + \frac{3}{2} x^2 + \frac{3}{4} x+ \frac{1}{8} = 0 
\end{aligned}

 期待する実数解の数が6個なのに、3次方程式が4本もあるのはどうよ、とも思いますが、一つ一つ見ていきます。

 まず、 f_1(x)=0 です。 f_1(x) の導関数を求めることにより、 f_1(x) |x| \leqq 1 の範囲に極値を持ち、しかも f_1(-1) < 0, f_1(-\frac{1}{2}) > 0, f_1(0) < 0, f_1(1) > 0 であることから、 f_1(x)=0|x| \leqq 1 の範囲に3つの実数解をもつことがわかります。同様に f_3(x)=0 も、|x| \leqq 1 の範囲に3つの実数解をもつことが証明できます。

  f_1(x)=0f_3(x)=0 が共通解を持たないことは、方程式 f_1(x) - f_3(x)=0 の解 -\frac{1}{2}, 1 が、f_1(x)=0 および f_3(x)=0 の解になっていないことから、示すことが出来ます。

 一方 f_2(x)=0 ですが、 f_2(x) = (x+\frac{1}{2})(x^2+\frac{1}{2} x -\frac{1}{4}) と因数分解されます。3つの解のうちどれかが -\frac{1}{2} でかつ、他の解が -\frac{1}{2} ではない場合、その解のセットは方程式 (*) の解になりえないので、 f_2(x)=0 は対象外となります。

 最後に、 f_4(x)=(x+\frac{1}{2})^3 なので、f_4(x)=0 も考慮から外します。

 以上の考察により、6つの異なる実数の存在を示すことが出来ました。

十分条件の証明

 これで終わったわけではありません。ここまでの論考により、方程式 (*) の実数解が存在すれば、それは f_1(x) = 0 または f_3(x) = 0 を満たすことは示せましたが、逆は必ずしも明らかではありません。

 なぜそんなことになるかと言うと、対称式算出の際に実施した、方程式 (*) の辺々を足したり掛けたりする推論は、一般には逆方向には真ではないからです。

 そこで、 f_1(x)=0 f_3(x)=0 の解が (*) の解であることを、証明します。

証明の方針

 まず、 f_1(x)=0 の3つの実数解を \alpha \beta \gamma と置く時、以下の等式が成立することを、証明します。

\begin{aligned}
\left \{
\begin{aligned}
  &  \alpha   + \beta + \gamma  = (2\alpha^2 - 1) \\
&  \text{     } + (2\beta^2 -1)  \\
&  \text{     }+(2\gamma^2-1) \\
\\
 & \alpha  \beta   + \alpha \gamma + \beta  \gamma  \\
& = (2\alpha^2 - 1)  (2\beta^2 -1) \\
& + (2\alpha^2 - 1) (2\gamma^2-1)  \\ 
&+  (2\beta^2 -1) (2\gamma^2-1)\\
\\
& \alpha  \beta  \gamma  \\
&= (2\alpha^2 - 1)  (2\beta^2 -1)  (2\gamma^2-1) 
\end{aligned}
 \right.  \\
\\
 \cdot \cdot \cdot (7)
\end{aligned}

 (7)が証明できた時、 (2\alpha^2 - 1) (2\beta^2 -1) (2\gamma^2-1) はいずれも、 f_1(x)=0 の解となるので、それぞれ \alpha \beta \gamma のいずれかと等しくなります。

 しかも、 \alpha \beta \gamma のいずれも、1および -\frac{1}{2} と等しくないので、 \alpha = (2\alpha^2 - 1) \beta = (2\beta^2 - 1) \gamma = (2\gamma^2 - 1) のいずれも成り立ちません。したがって、 \alpha \beta \gamma (*) の解であることが示せます。

式(7)の証明

 (7)の証明ですが、(7)の右辺を展開し、以下のように \alpha + \beta + \gamma \alpha \beta + \alpha \gamma + \beta \gamma \alpha \beta \gamma の合成に変形します。

\begin{aligned}
&(2\alpha^2 - 1) + (2\beta^2 -1) + (2\gamma^2-1) \\
 &=2(\alpha^2+\beta^2+\gamma^2)-3 \\
&=2(\alpha+\beta+\gamma)^2 \\
&  \text{ } -4(\alpha\beta+\alpha\gamma+\beta\gamma)-3
\end{aligned}
\begin{aligned}
 &(2\alpha^2 - 1)  (2\beta^2 -1) \\ 
& \text{ }+ (2\alpha^2 - 1) (2\gamma^2-1)  \\
 & \text{ } +  (2\beta^2 -1) (2\gamma^2-1)  \\
&= 4(\alpha^2\beta^2 + \alpha^2\gamma^2 + \beta^2\gamma^2) \\
 &  \text{ } - 4(\alpha^2+\beta^2 +\gamma^2)+3 \\
&= 4(\alpha\beta+\alpha\gamma+\beta\gamma)^2 \\
& \text{ } - 8(\alpha^2\beta\gamma + \alpha\beta^2\gamma + \alpha\beta\gamma^2 )  \\
& \text{ } -4(\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2) + 3  \\
 &=4(\alpha\beta+\alpha\gamma+\beta\gamma)^2 \\
&  \text{ } -8\alpha\beta\gamma(\alpha + \beta + \gamma)\\
& \text{ } -4(\alpha+\beta+\gamma)^2 \\
 & \text{ }+ 8(\alpha\beta+\alpha\gamma+\beta\gamma) \\
& \text{ } +3 \\
\end{aligned}
\begin{aligned}
& (2\alpha^2 - 1) (2\beta^2 -1) (2\gamma^2-1) \\
&= 8\alpha^2\beta^2\gamma^2-4(\alpha^2\beta^2+\alpha^2\gamma^2+\beta^2\gamma^2) \\
& \text{ }+ 2(\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2) - 1 \\
&=  8\alpha^2\beta^2\gamma^2- 4(\alpha\beta+\alpha\gamma +\beta\gamma)^2  \\
& \text{ }+ 8\alpha\beta\gamma(\alpha + \beta + \gamma)\\
&  \text{ }+ 2(\alpha+\beta+\gamma)^2 \\
&  \text{ } - 4(\alpha\beta+\alpha\gamma+\beta\gamma) -1  \\
\end{aligned}

 変形のための計算量が思ったより多くて、ちょっと辟易しますが、これに表1の値を代入することで、(7)が成り立つことを示すことが出来ます。

f_3(x)=0 のほうも、同様の手順で証明します。

総括と今後の学習方針

 変数が循環する連立方程式を解く場合、今回のように対称式を利用することは、有用ではあります。変数が3つの場合、3次方程式に帰着できるからです。しかし、対称式を導出するときに元の方程式の辺々を足したり、などという操作を行っている場合は、十分条件の証明が必要になりますので、注意が必要です。

 対称式の導出が難しい場合もあります。いろいろ試して、簡単に対称式が得られない場合は、別のアプローチも考慮に入れたほうが良いでしょう。

 本問の場合、対称式を使って解の存在を証明することはできましたが、思いのほか計算量が多くなりました。出題者の意図は、最初に引用した、あのカッコいい証明を思いつけ、と言うことなのかもしれません。本問を教訓に、もし2倍角公式や3倍角公式に似た方程式に出くわすようなことがあった場合は、三角関数に変数変換することも試してみてください。

 対称式のハンドリングは基本動作なので、問題集もたくさんあります。パターンにはまれば簡単に解けることが多いので、問題をたくさん解いて、本番時に取りこぼすことのないようにしましょう。特に3項対称式は難易度が上がりますので、より重点的に取り組むようにしてください。

京大1997年

Posted by mine_kikaku