tan 1゜は有理数か? – 2006年京大 後期 数学 第6問
2006年京大 後期 数学 第6問 の問題文は、ずばりタイトルの通りです。
\tan 1^{ \circ} は有理数か。
一瞬、不意を突かれて「は?」とリアクションしてしまいそうな問題文です。少し遅れて、「んなわけねえだろ」と突っ込みたくなります。まずはその方向で考えてみます。
解法
三角関数の問題は、何であれ弧度法に変換しないと始まりません。 1^{\circ} を弧度法に変換すると、
1^{\circ} = \frac{\pi}{180}
となります。弧度法に変換した \tan \frac{ \pi }{ 180} をにらんでいても、知恵は湧いてきませんが、 \tan \theta がどういうときに有理数になるのか、考えてみます。とりあえず思いつくのは、
\begin{aligned} & \theta = 0 \\ & \theta = \frac{\pi}{4} \end{aligned}
あたりですが、ここで、二倍角の公式とかを複数回適用すれば、値が計算できる \tan \frac{\pi}{3} あたりに等しくなって、 \tan 1^{ \circ} が有理数だと矛盾する、みたいな展開にできるのではないか、ということが思いつけば勝ちです。
そこで、180を素因数分解してみます。
180 = 2^2 \times3^2 \times 5
なので、2倍角公式を2回、3倍角公式を2回適用すると、 \tan \frac{\pi}{5} に到達します。
2倍角の公式も3倍角の公式も、四則演算と整数倍しかありません。有理数は四則演算に閉じているので、もし \tan 1^{\circ} = \tan \frac{\pi}{180} が有理数ならば、 \tan \frac{\pi}{5} も有理数になるはずですが、これは矛盾なので、 \tan 1^{\circ} は無理数であることが証明できました。
\tan \frac{\pi}{5} が無理数であることの証明
\tan \frac{\pi}{5} が無理数であることは、証明なしにしれっと使っても大丈夫だとは思いますが、念のために具体的な値を導出します。
まず、1辺の長さが1の正5角形を準備します(図1)。
\square \mathrm{PCDE} はひし形なので、 \mathrm{PC} = \mathrm{PE} = 1 です。対角線の長さを x と置く時、 \mathrm{AD} = x , \mathrm{PB} = x- 1 です。
\triangle \mathrm{ACD} \sim \triangle \mathrm{CPB} なので、
\frac{\mathrm{CD} }{\mathrm{AD}} = \frac{\mathrm{PB} }{\mathrm{CP}}
が成り立ちますが、これを x の式に書き換えると
\frac{1 }{x} = \frac{x-1 }{1}
を得ます。分母を払うと
x^2 - x - 1 =0
です。 x > 0 なので、
x = \frac{1 + \sqrt{5}}{2}
です。
頂点 \mathrm{B} から対角線 \mathrm{AC} に垂らした垂線の足を \mathrm{H} とするとき、 \mathrm{AC} = \frac{1+\sqrt{5}}{2} なので \mathrm{CH} = \frac{1+\sqrt{5}}{4} です。したがって
\cos \frac{\pi}{5} = \frac{1+\sqrt{5} }{4}
を得ます。これから直ちに
\tan \frac{\pi}{5} = \sqrt{5 - 2 \sqrt{5} }
を得ます。これが無理数であることの証明は、さすがに不要でしょう。
余談その1
1辺の長さが1である正5角形の対角線の長さ \frac{1 + \sqrt{5} }{2} は、フィボナッチ数列でおなじみの黄金比です。
余談その2
\cos \frac{\pi}{5} の導出については、筆者が大学生の時、文系の同期から出題されて、筆者を含む理系の連中が余弦定理などを使って解こうとしたが、誰も答えられなかったという思い出があります。
その文系の同期は、難しい知識を知らないほうが解ける問題もある、みたいなことを言っていましたが、正にその通りです。三角関数関連の問題では、おなじみの各種公式群に加えて、中学校でやった相似比や三平方の定理など、図形の基本的な性質を使ってみることも、検討してみましょう。
解法のポイント
本稿では \tan \frac{\pi}{5} が無理数であることを利用して論証しましたが、これが唯一のアプローチではなく、 \tan \frac{\pi}{3} などを利用する方法もあります。2倍角、3倍角の公式だけではなく、普通の加法定理も適用すれば、証明できます。
本問は三角関数の値が有理数か無理数かを問う問題でしたが、これは三角関数の値や、角度それ自体の値を求める問題のバリエーションととらえることが出来ます。
そのような問題を解くポイントは、 三角関数の具体的な値が計算できる角度の当たりをつけることです。そのような角度は限られていて、 \frac{\pi}{6}, \frac{\pi}{4} , \frac{\pi}{3} や、当然 \frac{\pi}{2} , \pi 、まれに \frac{\pi}{5} くらいです。
入試問題なのだから、具体的な値を聞かれたら、正解はそれらの中に必ずあります。本番でその様な問題に出くわしたら、それら候補の中から、当たりを探しましょう。