サイコロ出目の非線形漸化式から確率漸化式を立てる – 2012年京大 数学 第6問

訳わからん・・・(51581によるPixabayからの画像)

2023年10月10日

2012年京大 数学 第6問 はサイコロを振って出た目に関する確率の問題ですが、本問の凶悪なところは、出目の漸化式(しかも割り算が入っている)から得られる計算結果に対する確率を求めなければいけないところです。問題文は以下のとおりです。

 さいころを n 回投げて出た目を順に X1,X2,…,Xn とする。さらに

Y_1 = X_1,Y_k =X_k + \frac{1}{Y_{k-1}}(n=2, \cdots,n)

によって Y1,Y2,…,Yn を定める。

\frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_n \leqq 1 + \sqrt{3}

となる確率 pn を求めよ。

 数列 {Xn},{Yn} の一般項を求めるのかと思ったら違っていて、 Yn が取る値の確率を求めよ、という問題です。複雑すぎて頭が沸騰しそうですが、とりあえず見ていきましょう。

2012年京大 数学 第6問 の解法

Xn の取り得る値に制限がある

  pn の漸化式を立てる必要が有りますが、いきなり式は立たないので、まずは不等式

\frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_n \leqq 1 + \sqrt{3} \cdots(1)

に着目します。

 これに Y_n = X_n+ \displaystyle\frac{1}{Y_{n-1}} を代入すると

\frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq X_n  + \frac1{Y_{n-1}}\leqq 1 + \sqrt{3}

ですが、 Xn があまり大きいと、不等式(1) が成り立たなくなることに気が付きます。

 それがどれくらいかというと、 1+ \sqrt{3} =2.732\cdots < 3 なので、 Xn > 3 の場合、 Yn-1 の値が何であっても不等式 (1) は成り立ちません。すなわち、不等式(1) が成り立つための必要条件は Xn ≦ 2 であることです。

問題文の不等式が成り立つための必要十分条件

 しかし、 Xn ≦ 2 だけでは不等式(1) が成り立つための十分条件には足りません。そこで、必要条件に Yn-1 に関する条件を加えて、もう一段の絞り込みを図ります。

  n ≧ 2 であるとします。

 不等式(1) が成り立って、かつ Xn = 1 のとき、

\frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq 1  + \frac1{Y_{n-1}}\leqq 1 + \sqrt{3}

なので、

\frac{-1+ \sqrt{3}}2 \leqq  \frac1{Y_{n-1}}\leqq  \sqrt{3}

です。よって、

\frac{1}{\sqrt{3}} \leqq Y_{n-1} \leqq1+ \sqrt{3} 

ですが、常に Yn-1 > 1 なので左側の不等式は無いのと同じです。したがって、不等式(1) が成り立って、かつ Xn = 1 のとき、

 Y_{n-1} \leqq1+ \sqrt{3} 

です。

 また、不等式(1) が成り立って、かつ Xn = 2 のとき、

\frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq 2  + \frac1{Y_{n-1}}\leqq 1 + \sqrt{3}

なので、

\frac{-3+ \sqrt{3}}2 \leqq  \frac1{Y_{n-1}}\leqq -1 + \sqrt{3}

ですが、常に Yn-1 > 0 なので左側の不等式は無いのと同じです。したがって、

 \frac1{Y_{n-1}}\leqq -1 + \sqrt{3}

であり、両辺の逆数を取ることによって

\frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n-1}

を得ます。

 以上をまとめると、不等式(1) が成り立つための必要条件は

 X_n = 1 \text{ かつ } Y_{n-1} \leqq1+ \sqrt{3} 

または

 X_n = 2 \text{ かつ } \frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n-1} 

です。

 逆にこの条件が成り立っているとします。

  X_n = 1 かつ Y_{n-1} \leqq1+ \sqrt{3} が成り立つとき、

 \frac{-1 + \sqrt{3}}2 \leqq \frac{1}{Y_{n-1}} < 1 < \sqrt{3}

なので、

 \frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq1+ \frac{1}{Y_{n-1}} < 1 + \sqrt{3}

が成り立ちます。

 また、 X_n = 2 かつ \displaystyle\frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n-1} が成り立つとき、

 \frac{-3 + \sqrt{3}}2 <0<  \frac{1}{Y_{n-1}} \leqq -1 + \sqrt{3}

なので、

 \frac{1 + \sqrt{3}}2 < 2 + \frac{1}{Y_{n-1}} \leqq 1 + \sqrt{3}

が成り立ちます。

 等号のない不等式より、等号のある不等式のほうが条件としてはゆるいので、不等式(1) が成り立つことが示せました。

 ゆえに n ≧ 2 のとき、不等式(1) が成り立つための必要十分条件は、

 X_n = 1 \text{ かつ } Y_{n-1} \leqq1+ \sqrt{3} 

または

 X_n = 2 \text{ かつ } \frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n-1} 

です。

pn が満たす漸化式を求める

 ここで、事象A が発生する確率を p(A) と表記することにします。すると、事象「 X_n = 1 かつ Y_{n-1} \leqq1+ \sqrt{3} 」と事象「 X_n = 2 かつ \displaystyle\frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n-1} 」は排他なので、

\begin{aligned}
p_n = & p \left( X_n = 1 \text{ かつ }  Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} \right) \\
  & +   p \left( X_n =2 \text{ かつ } \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1}  \right) \\
 

\end{aligned}

です。

 一方、事象「 X_n = 1 」と事象「 Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} 」は独立なので、

\begin{aligned}
 & p ( X_n = 1 \text{ かつ }  Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} ) \\
= & p(X_n=1)p(Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} ) \\
=  &\frac{1}6 p(Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} )
\end{aligned}

です。

 同様に、事象「 X_n = 2 」と事象「 \displaystyle\frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n-1} 」は独立なので、

\begin{aligned}
 &   p \left( X_n =2 \text{ かつ } \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1}  \right) \\
= &  p(X_n=2) p \left( \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1}  \right)  \\
=  &\frac{1}6 p \left( \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1}  \right) 
\end{aligned}

です。

 よって、

\begin{aligned}
p_n = & \frac{1}6 p(Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} )  \\
 &+  \frac{1}6 p \left( \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1}  \right)

\end{aligned}

が成り立ちます。

 ところが明らかに、

\begin{aligned}
 & p ( Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} )  \\
= & p \left( Y_{n-1} < \frac{1+ \sqrt{3}}2 \right)  \\
 &+ p \left( \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1} \leqq 1 + \sqrt{3} \right)   \\
 = & p \left( Y_{n-1} < \frac{1+ \sqrt{3}}2 \right) + p_{n-1} 
\end{aligned}

および

\begin{aligned}
 & p \left( \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1}  \right)  \\
= & p \left( \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1} \leqq 1 + \sqrt{3} \right)  \\
 & +p(1+\sqrt{3} < Y_{n-1}) \\
 = & p_{n-1} + p(1+\sqrt{3} < Y_{n-1}) 
\end{aligned}

が成り立ちます。また、

 \begin{aligned}
 p \left (  Y_{n-1} < \frac{1+ \sqrt{3}}2   \right ) + p_{n-1}   &\\
+ p( 1 + \sqrt{3} < Y _{n-1}) &  = 1

\end{aligned}

です。したがって、

\begin{aligned}
p_n = & \frac{1}6 p(Y_{n-1} \leqq 1 + \sqrt{3} )  \\
 & +  \frac{1}6 p \left( \frac{1+ \sqrt{3}}2 \leqq Y_{n -1}  \right) \\
 = & \frac{1}6  \left \{ p \left( Y_{n-1} < \frac{1+ \sqrt{3}}2 \right) + p_{n-1}  \right \} \\
 & + \frac{1}6  \{ p_{n-1} + p(1+\sqrt{3} < Y_{n-1})  \} \\
 = & \frac{1}6 p_{n-1} + \frac{1}6 
\end{aligned}

です。

 あとは一般項を求めるだけです。

 得られた漸化式から

\begin{aligned}
p_n - \frac{1}5 = &  \frac{1}6  \left ( p_{n-1} - \frac{1}5  \right) \\ 
 =& \left ( \frac{1}6 \right )^{n-1} \left ( p_{1} - \frac{1}5  \right)
\end{aligned}

が導けます。

 \frac{1 + \sqrt{3}}2 \leqq Y_1 \leqq 1 + \sqrt{3}

を満たす Y1Y1 = 2 一択なので、 p_1 = \displaystyle\frac{1}6 です。よって、

\begin{aligned}
p_n = & \frac{1}5 + \left ( \frac{1}6 \right )^{n-1} \left ( \frac{1}6 - \frac{1}5  \right) \\
 = & \frac{1}5 -\frac{1}5 \left ( \frac{1}6 \right )^{n}
\end{aligned}

です。これは n = 1 の時も成り立ちます。

解法のポイント

わかっている情報から、何が言えるのかを考えよう(Gerd AltmannによるPixabayからの画像)

 本問の特徴は、サイコロを振って出た目の漸化式によって得られる値の確率を求める、という複雑な建付けになっている上に、漸化式が非線形(式の中に逆数がある)であるという、ちょっと見たことがない設問であることです。

 ここから確率 pn の漸化式を導出するのは一筋縄では行きませんが、まず、 Xn の範囲が絞り込めることに気がつくことが、第一歩です。これを突破口に、不等式(1) が成り立つ時の Yn-1 の条件を明確にしていけば、 本稿で示したように pnpn-1 の関係性を導出することができるでしょう。 つまり、与えられた条件から何が言えるのか、ということを考えることが、答えにたどり着くためのポイントです。見たことない問題に出くわした時には、まず最初に、条件から何が言えるのかを列挙してみましょう。

京大2012年

Posted by mine_kikaku