2025年京大 数学 第6問はコイントス確率問題ですが、見た目よりずっと面倒くさい、クセ強問題です。問題文は以下のとおりです。
n は 2 以上の整数とする.1 枚の硬貨を続けて n 回投げる.このとき,k 回目(1 ≦ k ≦ n) に表が出たら Xk = 1,裏が出たら Xk = 0 として,X1, X2, · · · , Xn を定める.
Y_n = \sum_{k=2}^n X_{k-1} X_k
とするとき,Yn が奇数である確率 pn を求めよ.
ちょっと見慣れない設問ですが、案外何とかなりそうな気がします。というファースト・インプレッションは大きな間違いであることが後に明らかになりますが、早速見ていきましょう。
2025年京大 数学 第6問 の解法
方針ぎめ
求める pn は Xk-1Xk = 1 になる個数が奇数個の確率なので、 p(事象) をその事象が発生する確率、 #有限集合 をその有限集合の要素数とするとき、
\begin{aligned} p_n = & p( \#\{ 2 \leqq k \leqq n | X_{k-1} X_k=1 \} \text{が奇数 )} \\ = & \left . \sum_{\substack{1 \leqq m \leqq n -1\\ m \text{は奇数}}} \right \{\\ & \text{ } \sum_{\substack{2 \leqq k_1 < k_2 < \\ \cdots < k_m \leqq n} }\left ( \prod_{l=1}^m p (X_{k_l -1} X_{k_l} = 1) \right . \\ & \left. \left . \text{ } \times \prod_{\substack{k \notin \{ k_1,k_2, \\ \text{ } \cdots k_m \} } }p(X_{k-1} X_k = 0 ) \right ) \right \} \end{aligned}
であり、 p(X_{k-1}X_k = 1 ) = \displaystyle\frac{1}4 、 p(X_{k-1}X_k = 0) = \displaystyle\frac{3}4 なので
\begin{aligned} p_n = \sum_{\substack{1 \leqq m \leqq n-1 \\ m \text{は奇数}}} {}_{n -1}\mathrm{C}_m \left (\frac{1}4 \right)^m \left (\frac{3}4 \right)^{n-m-1} \end{aligned}
です。
あとは2023年京大 数学 第6問の解法でも使用した二項定理の奥義を用いてちゃっちゃっと計算して完答だ!と言いたいところですが、実はよく考えると、 p(X_{k-1}X_k = 0) = \displaystyle\frac{3}4 がうそぴょんです。p(Xk-1Xk=0) は Xk-2 の値に依存して変動し、たとえば Xk-2=1 かつ Xk-2Xk-1=0 なら
\begin{aligned} & p(X_{k-1}X_k = 0 | X_{k-2} = 1 \text{ \& } X_{k-2} X_{k-1} = 0) \\ = & p(X_{k-1} = 0 \text{ \& } X_k = 0 ) \\ &+ p(X_{k-1} = 0 \text{ \& } X_k = 1 ) \\ = &\displaystyle\frac{1}2 \end{aligned}
です。
コインの表の出方について場合分けをする必要が出てきました。これは当初の楽観ムードが消し飛んで、ヤバみが深まってきました。
やはり最終問は只者ではありません。こいつは捨ててもっと確実に点が取れる問題に注力しましょう。
しかし他の5問はすべて完答してまだまだ余力があるという場合には、漸化式を立てて何とかできないか、検討してみましょう。
連立漸化式を立ててみる
場合分けなどが面倒くさくなってきた場合は、漸化式を立ててみると楽に解けることがあります(一般項が導出できる限りにおいてですが)。
まず、 n が1つ増える(すなわちコイントス回数が1解増える)ときに、値が1である Xk-1Xk が増加する個数は高々1個であることに注意しましょう。
したがって、Yn が奇数のとき Yn+1 が奇数である必要十分条件は値が1である Xk-1Xk が増えないことであり、それは
( Xn=1 かつ Xn+1=0 ) または Xn=0
です。
また、Yn が偶数のとき Yn+1 が奇数である必要十分条件は値が1である Xk-1Xk が1増えることであり、それは
Xn=1 かつ Xn+1=1
です。
このことを表で整理してみましょう。
Yn | Xn | Xn+1 | Yn+1 |
---|---|---|---|
奇数 | 1 | 1 | 偶数 |
奇数 | 1 | 0 | 奇数 |
奇数 | 0 | 1 | 奇数 |
奇数 | 0 | 0 | 奇数 |
偶数 | 1 | 1 | 奇数 |
偶数 | 1 | 0 | 偶数 |
偶数 | 0 | 1 | 偶数 |
偶数 | 0 | 0 | 偶数 |
Yn+1 が奇数になる条件には Yn が偶数である場合も含まれるので、連立確率漸化式を立てることにします。
さらに、Yn+1 が奇数になるかどうかには Xn の値も関わるので、漸化式の対象となる確率を以下の4種類用意します。
phn = Yn が奇数でかつ Xn=1 である確率 |
ptn = Yn が奇数でかつ Xn=0 である確率 |
qhn = Yn が偶数でかつ Xn=1 である確率 |
ptn = Yn が偶数でかつ Xn=0 である確率 |
このとき、以下の連立確率漸化式を導出できます。
\left \{ \begin{aligned} ph_{n+1} = \frac{1}2 ( pt_n + qh_n) \cdots(1) \\ pt_{n+1} = \frac{1}2 ( ph_n + pt_n) \cdots(2)\\ qh_{n+1} = \frac{1}2 ( ph_n + qt_n) \cdots(3)\\ qt_{n+1} = \frac{1}2 ( qt_n + qh_n) \cdots(4)\\ \end{aligned} \right.
また、当然
phn + ptn + qhn + qtn = 1
が成り立ちます。さらに
\begin{aligned} & ph_{n+1} + qh_{n+1} \\ = & \frac{1}2 ( pt_n + qh_n) + \frac{1}2 ( ph_n + qt_n) \\ = & \frac{1}2 ( pt_n + qh_n + ph_n + qt_n) \\ = & \frac{1}2 \\ \end{aligned}
が成り立ちます。すなわち n ≧ 3 のとき
ph_{n} + qh_{n} = \frac{1}2
ですが、 n= 2 のとき
ph_{2} = qh_{2} = \frac{1}4
なので、 n = 2 のときも成り立ちます。
同様に n≧ 2 のとき
pt_{n} + qt_{n} = \frac{1}2
が成り立ちます。
pn が満たす確率漸化式を求める
以上の準備のもとに、pn が満たす確率漸化式を求めます。
式(1)および式(2)より
\begin{aligned} p_{n+1} = & ph_{n+1} +pt_{n+1} \\ = & \frac{1}2 ( pt_n + qh_n) + \frac{1}2 ( ph_n + pt_n)\\ = & \frac{1}2 ( pt_n + qh_n) + \frac{1}2 p_n \\ \end{aligned}
ですが、
ph_{n} + qh_{n} = \frac{1}2
なので
\begin{aligned} p_{n+1} = & \frac{1}2 ( pt_n +\frac{1}2 - ph_n) + \frac{1}2 p_n \\ = & \frac{1}4 + \frac{1}2(pt_n - ph_n) + \frac{1}2 p_n \\ \end{aligned}
です。
さらに式(2) より
pt_{n+1} = \frac{1}2 p_n
なので
\begin{aligned} p_{n+1} = & \frac{1}4 + \frac{1}2(pt_n - ph_n) + \frac{1}2 p_n \\ = & \frac{1}4 + \frac{1}4 p_{n-1} - \frac{1}2(p_n - pt_n) + \frac{1}2 p_n \\ = & \frac{1}4 + \frac{1}4 p_{n-1} + \frac{1}2 pt_n \\ = & \frac{1}4 + \frac{1}4 p_{n-1} + \frac{1}4 p_{n-1} \\ = & \frac{1}4 + \frac{1}2 p_{n-1} \end{aligned}
と漸化式を導出することができました。サフィックスが2つ飛びの漸化式になっています。
一般項を求める
サフィックスが2つ飛びなので、偶奇を分ける必要があります。
まず n = 2m+1 ( m ≧ 2 ) の場合です。
p_{2m+1} = \frac{1}2 p_{2m-1} + \frac{1}4
なので
\begin{aligned} p_{2m+1} - \frac{1}2 = & \frac{1}2 \left (p_{2m-1} - \frac{1}2 \right ) \\ = & \left ( \frac{1}2 \right ) ^{m-1} \left (p_{3} - \frac{1}2 \right ) \\ \end{aligned}
n = 3 のとき、 Y3 が奇数になるコインの出方は
1-2-3
表-表-裏
裏-表-表
の2通りなので、
p_3 = \frac{1}4
です。したがって
\begin{aligned} p_{2m+1} = \frac{1}2 - \left ( \frac{1}2 \right ) ^{m+1} \\ \end{aligned}
です。これは m = 1 のときも成り立ちます。
次にn = 2m ( m ≧ 2 ) の場合です。
\begin{aligned} p_{2m} - \frac{1}2 = & \frac{1}2 \left (p_{2m-2} - \frac{1}2 \right ) \\ = & \left ( \frac{1}2 \right ) ^{m-1} \left (p_{2} - \frac{1}2 \right ) \\ \end{aligned}
ですが、
p_2 = \frac{1}4
なので
\begin{aligned} p_{2m} = \frac{1}2 - \left ( \frac{1}2 \right ) ^{m+1} \\ \end{aligned}
です。
ゆえに
p_n = \left \{ \begin{aligned} & \frac{1} 2 - \left ( \frac{1}2 \right ) ^{\frac{n+1} 2} ( n\text{は奇数} ) \\ & \frac{1} 2 - \left ( \frac{1}2 \right ) ^{\frac{n} 2 + 1} ( n\text{は偶数} ) \\ \end{aligned} \right .
です。
解法のポイント

本問は設問条件が複雑なので、連立確率漸化式を立てる必要があります。これに気がつけるかが第1関門です。
また、連立漸化式から pn の漸化式を導出するのにも結構苦労します。特に、
ph_{n} + qh_{n} = \frac{1}2
に気がつけないとかなり厳しくなります。まあ言っていることは、表が出る確率が \displaystyle\frac{1}2 だというだけのことなのですが、確率変数をたくさん用意していると見失いがちです。
このように本問は、ワンアイデアでアハ体験、というわけには行きません。最終問ということでもあるので、5分以上考えて方針が見えないときは早々に見切りをつけましょう。
試験対策としては、連立確率漸化式を立てさせるような難し目の問題をたくさん解いて、感覚を養っておきましょう。