2023年3月14日
2001年東大 数学 第4問 は複素平面上の数列問題です。この分野は入試ではポピュラーなので、本番に備えて十分な準備をしておきたいものです。
本問の大きな特徴は、あのフィボナッチ数列an+2=an+1+an を複素数に適用しているところです。どんな興味深い結果が得られるか、わくわくしますが(おい)、早速見ていきます。問題文は以下の通りです。
複素数平面上の点 a1,a2,⋅⋅⋅,an,⋅⋅⋅ を、
⎩⎨⎧a1=1, a2=i,an+2=an+1+an(n=1,2,⋅⋅⋅)
により定め
bn=anan+1
とおく。ただし、 i は虚数単位である。
(1) 3点 b1,b2,b3 を通る円 C の中心と半径を求めよ。
(2) すべての点 bn (n=1,2,⋅⋅⋅) は円 C の周上にあることを示せ。
複素平面の問題なので、図形に絡めてきました。円周上にあることの証明とか、計算が大変そうな予感がしますが、どうでしょうか。
小問1の解法
図形の問題なので、セオリー通りに図に書いて、イメージをつかみます。
a1=1a2=ia3=1+ia4=1+2i なので、
b1=ib2=1−ib3=23+i です。これを図示すると、以下の通りです。
図1 明らかに(ていうか、あからさまに)、 △b1b2b3 は直角二等辺三角形であり、その外接円 C の中心は b1 と b2 の中点 21 、半径は線分 ∣b2−b1∣ の長さの半分である 25 であることが、難しい計算を要せずすぐにわかることと思います。
後述しますが、初期値 a1 、 a2 をどのように選んでも、こういうわかりやすい結果になるというわけではありません。出題者の細やかな配慮が感じ取れます。
小問2の解法
まず、記号の準備です。
bn=un+ivn(un,vn∈R) と置きます。このとき、証明したいのは
(un−21)2+vn2=45 です。式を変形すると、
un2−un+vn2=1 ⋯(1) です。すべての自然数 n に対して式(1)が成り立つことを、数学的帰納法で証明します。
まず、 n=1 のときは、小問1より明らかに式(1)が成り立ちます。
次に、n=m(m≧1) のときに、式(1)が成り立つと仮定します。このとき、
am+2=am+1+am であることから、
bm+1=1+bm1 が成り立ちます。よって、数学的帰納法の仮定より
um+1+ivm+1=1+um+ivm1 =1+um2+vm2um−ivm =1+1+umum−ivm が成り立つので
um+1=1+um1+2umvm+1=−1+umvm が成り立ちます。したがって、
um+12−um+1+vm+12=(1+um1+2um)2−1+um1+2um+(1+um−vm)2=(1+um)21+4um+4um2−(1+um)21+3um+2um2+(1+um)2vm2=(1+um)2um+2um2+vm2=(1+um)2(um+um2)+(um2+vm2)=(1+um)2(um+um2)+(1+um)=1 が成り立つので、n=m+1 のときに式(1)が証明できました。ゆえにすべての自然数 n に対して式(1)が成り立ち、同一円 C の周上にあることが(わりとあっさり)証明できました。
発展
bn が同一円周上に存在するための十分条件
b1 が式①を満たせば、小問2で示したように、すべての bn が同一円周上に存在します。ここで
an=sn+itn(sn,tn∈R) と置く時、
b1=s1+it1s2+it2=s12+t12s2s1+t2t1+is12+t12(s1t2−s2t1) であるので、これを①に代入すると
∣a1∣2∣a2∣2−∣a1∣2s1s2+t1t2=1 分母を払って
∣a2∣2−(s1s2+t1t2)=∣a1∣2 ⋯(2) を得ます。
式(2)の幾何学的な意味を考察します。式(2)を以下のように変形します。
s22+t22−(s1s2+t1t2)=s12+t12 上記式の左辺を平方完成し、余剰項を右辺に移項すると、
(s2−21s1)2+(t2−21t1)2=45(s12+t12) となります。 a1 、 a2 で表記すると、
∣a2−21a1∣=25∣a1∣ と変形できます。すなわち、 a2 は 2a1 を中心とし、半径 25∣a1∣ の円周上にあります。
a1 が与えられたとき、 a2 をこのように選べば、a1 、 a2 は式②を満たし、すべての bn は同一円周上にあります。たとえば、
a1=ia2=1+ia3=1+2ia4=2+3i のとき、 ∣a2−21a1∣=∣1+21i∣=25 となりますが、このとき、
b1=1−ib2=23+ib3=58−i の3点は確かに、中心 21 、 25 の円周上に存在します。しかし、直角二等辺三角形のような、筋の良い形にはなっていません(図2)。
図2 もしこんな形で出題されていたら、小問1は大分苦労したことでしょう。本問に関しては、まことに出題者に感謝です。
bn が同一円周上に存在するための必要条件
今度は逆に、bn が同一円周上に存在したとき、初期値 a1,a2 が満たすべき条件を考察します。
先ほどと同じように、
an=sn+itn(sn,tn∈R) と置きます。また、二次方程式
x2−x−1=0 の2つの解をそれぞれ、α 、 β(α<β) と置きます。このとき、自然数 n に対し、
sn+2=sn+1+sntn+2=tn+1+tn なので、よくある漸化式の解法により、一般項
sn=tn=51{(βn−1−αn−1)s2+(βn−2−αn−2)s1}51{(βn−1−αn−1)t2+(βn−2−αn−2)t1} を得ます。ここで、 β−α=5 、 αβ=−1 であることを使っています。
定義より、
bn=anan+1=sn+itnsn+1+itn+1=sn2+tn2sn+1sn+tn+1tn+isn2+tn2sntn+1−sn+1tn なので、
bn=un+ivn(un,vn∈R) と置く時、
un=sn2+tn2sn+1sn+tn+1tn vn=sn2+tn2sntn+1−sn+1tn となります。いささかうんざりする計算を行った結果、
un2−un+vn2=Fn+2(−1)nGFn−3(−1)nG⋯(3) ここに
Fn=β2n−4(βs2+s1)2 +α2n−4(αs2+s1)2 +β2n−4(βt2+t1)2 +α2n−4(αt2+t1)2G=∣a2∣2−(s1s2+t1t2)−∣a1∣2 を得ます。
式(1)が成り立つとき、すべての n∈N に対し、
Fn+2(−1)nGFn−3(−1)nG=1 が成り立つので、 G=0 が成り立ちます。すなわち、bn が同一円周上に存在するための必要条件は、初期値 a1,a2 が式(2)を満たすことです。
これは十分条件でもあったので、以上をまとめると、bn が同一円周上に存在するための必要十分条件は、初期値 a1,a2 が式(2)を満たすこととなります。
bn は黄金比に収束する
フィボナッチ数列と言えば黄金比(Thanks for your Like • donations welcomeによるPixabayからの画像)初期値 a1,a2をどのように選んでも、 bn は β=21+5 に収束します。これはいわゆる黄金比です。
bn=un+ivn(un,vn∈R) とおいたとき、まず vn が0に収束することを示します。
bn=1+bn−11 なので、
un=1+un−12+vn−12un−1vn=−un−12+vn−12vn−1 が成り立ちますが、明らかに un>0 なので、 n≧2 のとき、
un=1+un−12+vn−12un−1>1 が成り立ちます。したがって n≧2 のとき、
un=1+un−12+vn−12un−1<1+un−11<2 が成り立ちます。
一方、
∣vn∣=un−12+vn−12∣vn−1∣ <1+vn−12∣vn−1∣≦21
なので、 n≧2 のとき、
un=1+un−12+vn−12un−1 >1+4+vn−121 ≧1+4+411 =1721>67
が成り立ちます。
以上の準備の下に、
∣vn∣=un−12+vn−12∣vn−1∣ <un−12∣vn−1∣<4936∣vn−1∣ <(4936)n−1∣v1∣
なので、 n↗∞ のとき、 vn は0に収束します。
次に、 un を評価します。
β2−β−1=0 なので、これを式(3)から辺々引くと、
(un−α)(un−β)+vn2+1=Fn+2(−1)nGFn−3(−1)nG ⋯(4) を得ます。ここで、 α=1−β であることを利用しました。
式(4)から直ちに、
un−β=un−α1×(Fn+2(−1)nGFn−3(−1)nG−1−vn2) ⋯(5) を得ますが、ここで式(5)の右辺を評価します。
∣β∣>1 、 ∣α∣<1 であることから、 limn→∞Fn=+∞ が成り立ちます。したがって、
n→∞limFn+2(−1)nGFn−3(−1)nG=1 が成り立ちます。
また、先に見たように、 limn→∞vn=0 であり、さらに、 un>67 、 α<0 であることから、
0<un−α1<76 であるので、式(5)の右辺は、n↗∞ のとき、0に収束します。したがって、 un は β に収束することが示せました。
もともとの条件のように、初期値 a1,a2 が式(2)を満たす場合は、もう少し簡単に収束を証明できます。
解法のポイントと今後の学習方針
複素平面はしっかり押さえておきましょう(klimkinによるPixabayからの画像) 小問1は、図を描くことでソッコー解答にたどり着くことが出来ました。実際の試験で、この時間短縮効果は非常に大きいです。図形の問題に限らず、複素数物でもできるだけ、図を書いてイメージをつかむようにしてください。
小問2は特にひっかけもなく、題意に沿って素直に計算していけば、比較的短時間で証明ができると思います。帰納法の仮定である式(1)をうまく適用できるよう、常に考えながら計算を進めてください。
本問で極限値を求める設問が無かったのは、大いなる謎です。しかしこれは、変に時間を取られる要素が無くなったという意味で、実際に試験を受けた人にはチャンスだったはずです。本問のように素直に答えが出せる問題は、取りこぼしなくきっちり回答し、併せて他の問題を解くための時間を捻出しましょう。
複素平面物は、2次元ベクトル物の特徴を持ちながら、数字としての四則演算や、複素数特有の「共役」の概念もあって、ちょっととっつきにくいところがあります。
しかしながら、特に本問のように数列と絡めた問題は鉄板なので、苦手な人は専門の問題集を購入して、じっくり取り組むことをお勧めします。