2023年3月14日
1998年東大 数学 前期 第3問は、平面図形と数列の問題です。これは解法の先取りというか、ネタバレですが、解いていくうちにフィボナッチ数列が、思いがけず現れてきます。
問題文は以下の通りです。
xy 平面に2つの円
C0:x2+(y−21)2=41
C1:(x−1)2+(y−21)2=41
をとり、 C2 を x 軸と C0 、 C1 に接する円とする。さらに、 n=2,3,⋯ に対して Cn+1 を x 軸と Cn 、 Cn−1 に接する円で Cn−2 とは異なるものとする。 Cn の半径を rn 、 Cn と x 軸との接点を (xn,0) として
qn=2rn1
pn=qnxn
とおく。
(1) qn は整数であることを示せ。
(2) pn も整数で、 pn と qn は互いに素であることを示せ。
(3) α を α=1+α1 を満たす正の数として、不等式
∣xn+1−α∣<32∣xn−α∣
を示し、極限 limn→∞xn を求めよ。
平方根の逆数が整数になることを示せ、とか、なかなか厳しそうです。何か、ドロドロになりそうな予感がします。
小問1の解法
ある数が整数であることを示すには、どうアプローチすればよいのでしょうか。見当もつきませんが、まずは漸化式を立てることを目指します。具体的な式の形を見れば、何か知恵が湧いてくるかも知れません。
図を描く
図形の問題なので、図を書いてみます。まず、初期値です(図1)。
図1 ちょっとした計算で、 x2=21,r2=81,q2=2 であることがわかります。最初の3項 n=0,1,2 の値を表にまとめると、以下の通りです。
n | xn | rn | qn |
---|
0 | 0 | 21 | 1 |
1 | 1 | 21 | 1 |
2 | 21 | 81 | 2 |
次に、一般項です(図2)。
図2式を立てる
各円 Cn の中心座標は (xn,rn) 、半径は rn です。これと、各円 Cn−1,Cn,Cn+1 がたがいに接しているという条件から、3平方の定理を適用して以下の3つの式を立てられます (n≧2) 。
(xn−1−xn)2+(rn−1−rn)2=(rn−1+rn)2(xn−xn+1)2+(rn−rn+1)2=(rn+rn+1)2(xn−1−xn+1)2+(rn−1−rn+1)2=(rn−1+rn+1)2 rn の項を右辺に移項して、
(xn−1−xn)2=4rn−1rn(xn−xn+1)2=4rnrn+1(xn−1−xn+1)2=4rn−1rn+1 ここで rn を qn に置き換えると、
(xn−1−xn)2=qn−12qn21(xn−xn+1)2=qn2qn+121(xn−1−xn+1)2=qn−12qn+121 両辺ともいい感じに2乗項だけになりました。 qn を rn の平方根で定義していたのは、このためだったのか。
次に、両辺を 21 乗します。
∣xn−1−xn∣=qn−1qn1∣xn−xn+1∣=qnqn+11∣xn−1−xn+1∣=qn−1qn+11 絶対値記号を外す
左辺の絶対値記号を外したいので、各 xn の大小関係を確認します。
各円 Cn−1,Cn,Cn+1 がたがいに接しているという条件から、
xn<xn+1<xn−1 か、
xn−1<xn+1<xn のいずれかなので、
xn−1−xn>0xn−xn+1<0xn−1−xn+1>0 か
xn−1−xn<0xn−xn+1>0xn−1−xn+1<0 のいずれかです。したがって、以下の式が成り立ちます(複号同順)。
xn−1−xn=±qn−1qn1xn−xn+1=∓qnqn+11xn−1−xn+1=±qn−1qn+11 qn の漸化式を求める
ここで、3つ目の式の両辺に −1 をかけて、符号を入れ替えます。
xn−1−xn=±qn−1qn1xn−xn+1=∓qnqn+11−xn−1+xn+1=∓qn−1qn+11 複号は同順です。辺々足すと、左辺はいい感じに0になるので、以下の式を得ます。
qn−1qn1−qnqn+11−qn−1qn+11=0 分母を払うと、
qn+1−qn−1−qn=0 すなわち
qn+1=qn+qn−1 ⋯(1) で、これはまさにフィボナッチ数列です (n≧2) 。
q1=1 、 q2=2 なので、以下、逐次的に qn が整数であることが示せます。
なお、 q0=1 であることから、式(1) は n≧1 の範囲で成り立ちます。
小問2の解法
式を立てる
まず、 pn の式を立ててみます。
小問1を解く際に得られた以下の式(複号同順)
xn−1−xn=±qn−1qn1xn−xn+1=∓qnqn+11−xn−1+xn+1=∓qn−1qn+11 において、 xn を pn で置き換えます (n≧2) 。
qn−1pn−1−qnpn=±qn−1qn1qnpn−qn+1pn+1=∓qnqn+11−qn−1pn−1+qn+1pn+1=∓qn−1qn+11 各式の分母を払います。
qnpn−1−qn−1pn=±1qn+1pn−qnpn+1=∓1−qn+1pn−1+qn−1pn+1=∓1 pn の漸化式を求める
ここから、 pn だけの式にしたいのですが、今度は辺々足しても、右辺は0にならないし、苦し紛れに1番目の式の両辺を2倍して、辺々足してみたらどうなるでしょうか。
(2qn−qn+1)pn−1+(qn+1−2qn−1)pn+(−qn+qn−1)pn+1=0 右辺は0になるので、定数項は無くなりました。 pn にかかる係数を何とかしなければなりませんが、とりあえず式(1)を使って、 qn+1 を消してみます。
{2qn−(qn+qn−1)}pn−1+{(qn+qn−1)−2qn−1}pn+(−qn+qn−1)pn+1=0 qn の項を整理すると、
(qn−qn−1)pn−1+(qn−qn−1)pn+(−qn+qn−1)pn+1=0 おおっ!これは!! 式(1) から、 qn−qn−1=qn−2(n≧2) であり、qn−2>0(n≧2) なので qn−qn−1>0 です。よって、辺々を qn−qn−1 で割って、
pn−1+pn−pn+1=0 すなわち
pn+1=pn+pn−1 ⋯(2) を得ます (n≧2) 。 なんと pn も、フィボナッチ数列でした。
p1=q1x1=1×1=1 、 p2=q2x2=2×21=1 であることから、すべての n≧1 に対し、 pn が整数であることが逐次的に示せます。
なお、 p0=q0x0=1×0=0 であることから、すべての n≧0 に対し、 pn は整数であることが示せました。また、式(2) は n≧1 の範囲で成り立ちます。
pn と qn が互いに素であることの証明
背理法で証明します。
n=3 までの pn と qn の値は、以下の表1の通りです。
n | qn | pn |
---|
0 | 1 | 0 |
1 | 1 | 1 |
2 | 2 | 1 |
3 | 3 | 2 |
表1 n=0,1,2 のとき、pn と qn が互いに素であると胸を張って言い切ってしまってよいのか、ちょっと気になりますが、 n=3 の時は明らかに互いに素です。
n≧4 のとき、 pn と qn が互いに素でないとすると、ある自然数 m>1 およびある自然数 p,q(p=q) が存在して、
pn=mpqn=mq が成り立ちます。
一方、
qn−1pn−qnpn−1=±1 が成り立つので、
mpqn−1−mqpn−1=±1 となります。左辺を m でくくって、
m(pqn−1−qpn−1)=±1 となりますが、自然数 m は1より大きく、また pqn−1−qpn−1 は整数なので、この2つを掛けて ±1 になるというのは矛盾です。
したがって、 n≧3 のとき、 pn と qn が互いに素で有ることが証明できました。
補足
qnpn−1−qn−1pn=±1qn+1pn−qnpn+1=∓1−qn+1pn−1+qn−1pn+1=∓1 から pn の漸化式を導出するとき、全部の式を使わずに、式1と式2の辺々を足すか、式1と式3の辺々を引いても、漸化式を導出できます。
たとえば式1と式2の辺々を足すと、
qnpn−1−qn−1pn+qn+1pn−qnpn+1=0 pn の係数をまとめて
qnpn−1+(−qn−1+qn+1)pn−qnpn+1=0 式(1) を代入して
qnpn−1+qnpn−qnpn+1=0 qn>0 なので、式(2) が導出できました。
こちらのほうが計算も少なくて、スマートです。式(1)をうまく適用できないか、という観点で考えていると、思いつけると思います。先に導出された結果を、後の論証に使えないかどうか、常に考えるようにしましょう。
小問3の解法
問題文が変に持って回った言い回しになっていますが、不等式
∣xn+1−α∣<32∣xn−α∣ を証明することで、 limn→∞xn=α であることが示せます。
ここで表1を改めて見ると、明らかに pn=qn−1 です。すなわち、
xn=qnqn−1 です。ここで qn の漸化式である式(1)を適用すると、
xn+1=qn+1qn =qn+qn−1qn =1+qnqn−11 =1+xn1 が成り立ちます。
したがって、
∣xn+1−α∣=∣∣1+xn1−1+α1∣∣=(1+xn)(1+α)1∣xn−α∣ ですが、 xn>0 であることと α=2−1+5 であることから、
(1+xn)(1+α)1<1+α1 =1+2−1+51 =1+52 <32 であるので
∣xn+1−α∣<32∣xn−α∣ が成り立ちます。したがって、
∣xn−α∣<(32)n∣x0−α∣ が成り立ちます。右辺は n→∞ のとき0に収束するので、 limn→∞xn=α が示せました。
発展 – その1:フィボナッチ数列の隣接項の比
フィボナッチ数列の隣接項の比 qnqn+1 はいわゆる黄金比21+5 に収束することが知られています。本ブログでも、「複素平面上のフィボナッチ数列 – 2001年東大 数学 第4問」という記事に、複素数版の証明を乗せていますので、ご覧ください。
小問3で、その逆数 qn+1qn が収束することを示した α=2−1+5 は、正しく黄金比の逆数になっています。
発展 – その2:一般に pn=qn−1 は成り立たない
小問3では、pn=qn−1 であることをうまく利用して、 xn=qnqn+1 の収束を示しましたが、一般にこれは成り立ちません。
実際、以下のケースでは、 pn=qn−1 にはなりません。
C0:x2+(y−21)2=41C1:(x−31)2+(y−181)2=3241 n≦3 の範囲の xn,rn,qn,pn の値は、以下の通りです。
n | xn | rn | qn | pn |
---|
0 | 0 | 21 | 1 | 0 |
1 | 31 | 181 | 3 | 1 |
2 | 41 | 321 | 4 | 1 |
3 | 72 | 981 | 7 | 2 |
pn=qn−1 のとき、小問3の証明は面倒くさくなります。そもそも α に収束するかどうかも、定かではありません。出題者は受験者が変に泥沼に陥らないように、問題を設定していることがわかります。
発展 – その3:pn=qn−1 のときの小問3
pn=qn−1 のとき、 xn=qnpn が何に収束するか、考察してみます。
qn,pn の一般項
ちょっとダサいですが、 qn,pn の一般項を求めます。
方程式
x2−x−1=0 の2つの解を、 ϕ,ψ(ψ<ϕ) と置きます。大きいほう ϕ が、黄金比です。
3項数列の一般項を求めるやりかたで、普通に導出できますが、昔も今も教科書にきちんと説明が載っていないので、一般項の求め方を少し詳しく記述します。
qn が満たす漸化式は
qn+1−qn−qn−1=0 ですが、解と係数の関係より、
ϕ+ψ=1ϕψ=−1 なので、これを漸化式の係数に代入して
qn+1−(ϕ+ψ)qn+ϕψqn−1=0 を得ます。これを変形して
qn+1−ϕqn=ψ(qn−ϕqn−1) =ψn(q1−ϕq0) が成り立ちます。同様に、
qn+1−ψqn=ϕn(q1−ψq0) が成り立ちます。
1つ目の式の両辺に ψ を、2つ目の式の両辺に ϕ をそれぞれかけて、
ψqn+1−ϕψqn=ψn+1(q1−ϕq0)ϕqn+1−ϕψqn=ϕn+1(q1−ψq0) 辺々引いて
(ψ−ϕ)qn+1=ψn+1(q1−ϕq0) −ϕn+1(q1−ψq0) 整理すると
qn=ϕ−ψ1{(ϕn−ψn)q1 −ϕψ(ϕn−1−ψn−1)q0)} ここで
ϕ−ψ=5ϕψ=−1 を代入して、
qn=51{(ϕn−ψn)q1+(ϕn−1−ψn−1)q0} 同様に、
pn=51{(ϕn−ψn)p1+(ϕn−1−ψn−1)p0} xn の一般項と極限
xn=qnpn の一般項は
xn=qnpn=(ϕn−ψn)q1+(ϕn−1−ψn−1)q0(ϕn−ψn)p1+(ϕn−1−ψn−1)p0={ϕ−ψ(ϕψ)n−1}q1+{1−(ϕψ)n−1}q0{ϕ−ψ(ϕψ)n−1}p1+{1−(ϕψ)n−1}p0 となります。ここで、
∣∣ϕψ∣∣=∣∣23−5∣∣<1 なので、 limn→∞ϕψ=0 が成り立ちます。したがって、
n→∞limxn=ϕq1+q0ϕp1+p0 となります。 xn が α に収束するのは、特殊なケースであることがわかりました。
逆に、 pn,qn を整数にすることにこだわらなければ、初期値をうまくコントロールすることで、 xn を比較的自由な値に収束されることが出来ます。たとえば、初期値を以下のように設定すると、 xn を 21 に収束させることができます。
n | xn | rn | qn | pn |
---|
0 | 0 | 21 | 1 | 0 |
1 | 1+ϕ1 | 4+6ϕ1 | 1+ϕ | 1 |
2 | 2+ϕ1 | 10+10ϕ1 | 2+ϕ | 1 |
3 | 3+2ϕ2 | 20+14ϕ1
| 3+ 2ϕ | 2 |
発展 – その4:pn と qn が互いに素である件
フィボナッチ数列の隣接項が互いに素であるというのも、良く知られていますが、本問の小問2はまさにその証明を求めています。しかし本稿では、 pn=qn−1 であることを使わずに証明できたので、 pn=qn−1 のときも互いに素であることがわかります。
解法のポイント
本問は登場する変数が多い( xn,rn,qn,pn の4種類)ので、どのようにして変数を減らし、欲しい変数だけの式にするかがポイントです。
最初に3平方の定理を使って3つの式が出来た時に、右辺、左辺と変数を分離することが1番目のポイントです。次いで、左辺側の xn が3式合わせると対称式のように循環していて、しかもマイナスの項があることに注目です。うまくすると、今回のように辺々足したらキャンセルしあって0、ということが期待できます。
一般には代入法で変数を減らしますが、条件がそろえば一気に消せるので、その可能性を常に探ってください。
pn=qn−1 に気が付くことも重要です。これに気が付かないと、小問3がえらく大変になります。
入試問題というものは過度に泥沼状態に陥らないよう、今回のpn=qn−1のように、スマートに解けるように特殊な条件を前提としていることが、往々にしてあります。問題を解いていてドロドロになりかけたら、スマートな解決に導く「蜘蛛の糸」が天井からぶら下がっていないか、今一度設問内容を確認してみてください。
面倒な計算を避けてパパっと答えを導けないか、常に考え続けることがポイントです。