ネイピア数の定義を再確認する – 2016年東大 数学 第1問
不等式右側の解法
次に、
e < \left ( 1+ \frac{1}{x} \right )^{x + \frac{1}{2} }
の証明です。不等式左側の時のように、両辺の対数を取ると、
\begin{aligned} 1 < (x + \frac{1}{2}) \log ( 1+ \frac{1}{x} ) \\ \\ \cdots (1) \end{aligned}
を得ます。
平均値の定理を使ってみる
不等式(1)を、平均値の定理の適用をにらんで、以下のように変形します。
\frac{1} { 1+ \frac{1}{2x} } < x \log ( 1+ \frac{1}{x} )
t = \frac{1} {x} と変数変換します。
\frac{1} { 1+ \frac{t}{2} } < \frac{1}{t} \log ( 1+ t )
\log(1+t) は 0 \leqq t < \infty の範囲で連続なので、右辺に平均値の定理を適用すると、すべての t > 0 に対して、ある実数 c \in (0,t) が存在して、
\frac{1} { 1+ \frac{t}{2} } < \frac{1}{1+ c }
となります。これをさらに変形して、
c < \frac{t}{2}
を得ます。すなわち、不等式(1)を平均値の定理を適用して証明しようとする場合、すべての t > 0 に対して、ある実数 \bm{c \in (0, \frac{t}{2} ) } が存在して、
\frac{1}{t} \log ( 1+ t ) = \frac{1} {1+ c }
が成り立つことが必要です。これは一般的な平均値の定理の主張を超えるので、不等式(1)を証明するには、関数 \log に固有の性質を利用する必要がありそうです。
微分して増減を調べてみる
オーソドックスに導関数を求め、その増減から不等式の証明を試みます。
不等式(1)を、以下のように変形します。
\begin{aligned} \frac{1 }{ x + \frac{1}{2} }< \log ( 1+ \frac{1}{x} ) \\ \end{aligned}
t = \frac{1} {x} と変数変換します。
\begin{aligned} \frac{1 }{ \frac{1} {t} + \frac{1}{2} }< \log ( 1+t ) \\ \end{aligned}
0 < x < \infty なので、 t も 0 < t < \infty です。
ここで t の関数 f(t) を、
\begin{aligned} & f(t) = \log ( 1+t ) - \frac{1 }{ \frac{1} {t} + \frac{1}{2} } \\ & \text{ } = \log ( 1+t ) - \frac{2t }{ t+2 } \\ & \text{ } = \log ( 1+t ) + \frac{4 }{ t+2 } -2 \end{aligned}
と定義します。 f(t) は明らかに 0 \leqq t < \infty の範囲で連続であり、かつ f(0) = 0 です。
このとき、
\begin{aligned} f(t) > 0 \text{ } (0 < t < \infty) \\ \\ \cdots (2) \end{aligned}
が成り立てば、不等式(1)も成り立つので、不等式(2)を証明します。
f(t) を微分すると、
\begin{aligned} & f'(t) = \frac{1}{ 1+t } - \frac{4 }{ ( t+2 )^2} \\ & = \frac{ ( t+2 )^2 -4 (1+t ) }{ (1+t) ( t+2 )^2 } \\ & = \frac{ t^2 }{ (1+t) ( t+2 )^2 } \end{aligned}
です。
t > 0 のとき、 f'(t) > 0 なので、 f(t) はこの区間で単調増加です。したがって f(t) > f(0) = 0 が成り立ちます。
すなわち、不等式(1)が証明できました。