ネイピア数の定義を再確認する – 2016年東大 数学 第1問

レイピアではありません(Mr Bear Mac MahonによるPixabayからの画像)

2023年3月14日

ネイピア数や自然対数のおさらい

 以上のように、証明自体は割と容易に出来ましたが、問題文にネイピア数の定義が載っているのに、それを使わなくてよかったのか、とか、ネイピア数の定義から ddxex=ex \frac{d} {dx} e^x = e^x とか ddxlogx=1x \frac{d} {dx} \log x = \frac{1} {x} を導出する必要があったのではないか、とか、やはり気になります。

 そこで改めて、ネイピア数や自然対数、指数関数 ex e^x の定義をおさらいします。

 なお、本項は、Wikipediaの記述を参考にしました。

ネイピア数の定義

 教科書には、以下のように定義されています。

e=limx0(1+x)1x e = \lim_{x \to 0} (1 + x )^ \frac{1}{x}

 この式を対数微分の定義に使う関係上、右辺において、 x x の値は正の値に限定されません。

 右辺の収束については、驚くべきことに教科書では触れていません。いいのかそんなことで。

 ここで t=1x t = \frac{1}{x} と変数変換すると、

e=limt(1+1t)t (3) e = \lim_{t \to \infty} (1 + \frac{1}{t} )^t \text{ } \cdots (3)

 と、問題文と同じになります。

 変形後のこちらの定義は、複利の計算から発見されたと言われています。発見者はベルヌーイです(ネイピアじゃないのかよ)。

 ベルヌーイは連続複利と言うものを求めようとして、ネイピア数に到達しました。1年を n n 等分し、 1n \frac{1} {n} 年ごとに 1n \frac{1} {n} の率の利息を複利で受け取るとすると、1年後の運用結果は、

(1+1n)n \left (1 + \frac{1}{n} \right )^n

となります。 n n を極限まで大きくして、細かく利息をもらうようにしたら、運用合計は青天井だ!と考えたかどうかはわかりませんが、そうはならずに有限の値に収束することがわかりました(残念)。

対数関数の微分

  a>0 a > 0 a1 a \ne 1 のとき、

loga(x+h)logaxh=1hloga(1+hx)=1xxhloga(1+hx)=1xloga(1+hx)xh\begin{aligned} & \frac{\log_a (x+h) - \log_a x}{h} \\ & = \frac{1}{h} \log_a (1+ \frac{h} {x} ) \\ & = \frac{1}{x} \cdot \frac{x}{h} \log_a (1+ \frac{h} {x} ) \\ & = \frac{1}{x} \cdot \log_a (1+ \frac{h} {x} ) ^\frac{x}{h} \end{aligned}

となるので、ネイピア数の定義式(2)を適用して、

limh0loga(x+h)logaxh=limh01xloga(1+hx)xh=1xloga(limh0(1+hx)xh)=1xlogae=1xloga\begin{aligned} & \lim_{h \to 0} \frac{\log_a (x+h) - \log_a x}{h} \\ & = \lim_{h \to 0}\frac{1}{x} \log_a (1+ \frac{h} {x} ) ^\frac{x}{h} \\ & = \frac{1}{x} \log_a \left (\lim_{h \to 0} (1+ \frac{h} {x} ) ^\frac{x}{h} \right )\\ & = \frac{1}{x} \log_a e \\ & = \frac{1}{x \log a } \end{aligned}

となります。 logax \log_a x は微分可能であり、その導関数は

(logax)=1xloga(log_a x)' = \frac{1}{x \log a}

であることが示せました。特に a=e a = e と置くことにより、自然対数の微分の公式

(logx)=1x(log x)' = \frac{1}{x }

が得られます。

指数関数の微分

 教科書に載っている導出方法は、次の通りです:a>0 a > 0 a1 a \ne 1 のとき、 y=ax y = a^x と置きます。このとき、両辺の対数を取って

logy=xloga\log y = x \log a

これを x x で辺々微分すると

yy=loga\frac{y'}{y} = \log a

したがって

(ax)=y=yloga=axloga\begin{aligned} & (a^x)' = y'= y \log a = a^x \log a \end{aligned}

 指数関数は対数関数の逆関数であることを利用するのかと思ったら、そうではありませんでした。

 特に a=e a= e のときは loge=1 \log e = 1 なので、おなじみの公式

(ex)=ex\begin{aligned} & (e^x)' = e^x \end{aligned}

が得られます。

関数の定義、導出順

 教科書上における指数関数、対数関数、および付随する概念の定義、導出順は以下の通りです。

  1. 正の実数 a>0 a > 0 の整数乗 an a^n
  2. 正の実数 a>0 a > 0 の自然数乗根 an \sqrt[n]{a}
  3. 正の実数 a>0 a > 0 の有理数乗 aq a^q
  4. 正の実数 a>0 a > 0 に対する、実数全体を定義域とする指数関数 ax a^x (定義域を有理数から実数に拡張するときの厳密な定義なし)
  5. 指数関数の逆関数としての対数関数 logax \log_a x
  6. 指数関数、対数関数の連続性(証明なし)
  7. ネイピア数の定義(収束性の証明なし)
  8. 対数関数の微分
  9. 指数関数の微分

 高校数学の範囲では、実数の連続性に関する説明がないので、連続関数や極限、微分の説明がもやっとしたものになっています(「限りなく a a に近づく」って一体何だよ)。

オイラーによるネイピア数の定義

オイラーが活躍したペテルブルグにある、血の上の救世主教会(DEZALBによるPixabayからの画像)

 教科書に載っている導出順では、まずネイピア数の定義があって、それをもとに ddxex=ex \frac{d} {dx} e^x = e^x を導出していましたが、オイラーのアプローチは真逆で、

ddxax=limh0ax+haxh=axlimh0ah1h=ax\begin{aligned} & \frac{d}{dx}a^x = \lim_{h \to 0 } \frac{ a^{x + h} -a^x} {h} \\ & = a^x \lim_{h \to 0 } \frac{ a^{ h} -1} {h} \\ & = a^x \end{aligned}

を満たすような a a 、すなわち

limh0ah1h=1(4)\begin{aligned} & \lim_{h \to 0 } \frac{ a^{ h} -1} {h} =1 & \cdots(4)\\ \end{aligned}

を満たす a a を、 e e と定義しました。

 式(4)の左辺の収束はあまり自明ではありませんが、オイラーは(4)を満たす e e 式(3)e e と同じものであることを証明しました。

無限級数による定義

 これは高校のレベルを外れますが、 指数関数 ex e^x に対し、以下の式が成り立ちます。

ex=n=0xnn!e^x = \sum_{n=0}^\infty \frac{x^n} {n!}

 ここで x=1 x =1 とおくと、

e=n=01n!e = \sum_{n=0}^\infty \frac{1} {n!}

となります。

まとめ

 本問はネイピア数の定義が問題文中にあるため、ちょっと幻惑されますが、平均値の定理や導関数による増減評価によって、比較的容易に証明できると思います。

 高校数学の範囲ではネイピア数の定義及び収束性は所与のものとなっているため、「収束することを示せ」みたいな問題が出ることは心配しなくて大丈夫です。

 ただ、ネイピア数の定義から、ddxex=ex \frac{d} {dx} e^x = e^x が成り立つことを示せ、的な問題は出ないと言い切れないので、学校で習った、まず対数関数の可微分性を示したうえで、指数関数の可微分性を導出するという手順は、覚えておいてください。

東大2016年

Posted by mine_kikaku