複素平面上の図形問題 – 2000年東大 数学 第2問

複素数を平面上で表現してみよう(Gerd AltmannによるPixabayからの画像)

2023年3月5日

 2000年東大 数学 第2問 は、ミレニアムの年に東大が贈る複素数の問題です。複素平面に図形を絡ませてきています。問題文は以下の通りです。

 複素数平面上の原点以外の相異なる2点 \mathrm P(\alpha), \mathrm Q( \beta ) を考える。 \mathrm P(\alpha), \mathrm Q( \beta ) を通る直線を l 、原点から l に引いた垂線と  l の交点を \mathrm R(w) とする。ただし、複素数 \gamma が表す点 \mathrm C \mathrm C(\gamma ) とかく。このとき、「 w = \alpha \beta であるための必要十分条件は、 \mathrm P(\alpha), \mathrm Q( \beta ) が中心 \mathrm A (\frac{1}{2}) 、半径 \frac{1}{2} の円周上にあることである。」を示せ。

 問題文では、複素数の複素平面上の表記を、複素数それ自体とは別の実態として記述していますが、ちょっと煩雑なので、本稿では複素数それ自体の表記( \alpha, \beta )に統一します。

複素数の幾何学的意味に関する準備

 複素数って数なのに、幾何学的な概念も持ち合わせているところがやっかいです。円だけならまだしも、直交しているとか、すぐにはイメージがわきません。ここで改めて、本問に登場する複素数の幾何学的性質「複素数 w = u +iv が直線 l 上にある」と、「 w l と直交する」の代数的意味合いを再確認します。

「複素数 w が直線 l 上にある」の意味

 考え方はベクトルと同じです。 l \alpha, \beta を通る直線なので、 w l 上にあるということは、 w- \alpha \beta -\alpha が平行であるということです。

 2つの複素数が平行であるとは、それらをベクトルとして見た時、傾きが同じと言うことですから、実部と虚部の比が同じであるということです。

 したがって、「複素数 w が直線 l 上にある」の代数的表記は

\Re (w-\alpha )\Im( \beta - \alpha)= \Im (w-\alpha )\Re( \beta - \alpha)

です。ここに \Re(w) w の実部を、 \Im (w) w の虚部を、それぞれ表します。複素数の実部、虚部をドイツの飾り文字で表記するのは、大学に行くと出てきますが、なかなか厨二心をくすぐってくれます。

 上記の式は、以下のように変形できます。

\Im((w- \alpha) \overline{( \beta - \alpha )} ) = 0

 すなわち、 w-\alpha \beta -\alpha が平行であることと、 (w - \alpha ) \overline{( \beta - \alpha)} 実数であることは、同値です。

w l と直交する」の意味

w \beta - \alpha と直交するので、それらの内積が0になりますが、これを代数的に表記すると

\Re (w  \overline{ (\beta -\alpha) } ) = 0

です。すなわち、 w \beta - \alpha と直交することと、 w \overline{ (\beta -\alpha) } 純虚数であることは、同値です。

十分性の証明

 複素数 \alpha, \beta が円周上にあるなら w = \alpha \beta であることを証明するほうが簡単そうなので、まずこちら方向から取り掛かります。

 はじめに、記号を準備します。

\begin{aligned}
& \alpha_1 = \Re( \alpha) \\
& \alpha_2 = \Im( \alpha) \\
& \beta_1 = \Re( \beta) \\
& \beta_2 = \Im( \beta) \\
\end{aligned}

と置きます。 \alpha, \beta は中心 \frac{1}{2} 、半径 \frac{1}{2} の円周上にあるので、

\begin{aligned}
& \left | \alpha - \frac{1}{2} \right | = \frac{1}{2} \\
& \left | \beta - \frac{1}{2} \right | = \frac{1}{2} \\
\end{aligned}

が成り立ちます。両辺を2乗して定数項を左辺に移行すると、

\begin{aligned}
&  | \alpha |^2 - \alpha_1  =0 \\
& | \beta |^2-\beta_1  =0 \\
\end{aligned}

となります。

 このとき、

\begin{aligned}
& \Im((\alpha \beta- \alpha) \overline{( \beta - \alpha )} )  \\
& =  \Im( \alpha |\beta|^2 -\alpha \overline{\beta} - |\alpha|^2 \beta + |\alpha|^2) \\
& = \alpha_2 [\beta|^2 +\alpha_1 \beta_2 - \alpha_2 \beta_1 - [\alpha|^2 \beta_2  \\
& = \alpha_2(|\beta|^2 - \beta_1) + \beta_2(\alpha_1 - | \alpha|^2) \\
& = 0
\end{aligned}

なので、 \alpha\beta - \alpha \beta - \alpha は複素平面上で平行であり、 \alpha \beta は直線 l 上にあることが言えました。

 また、

\begin{aligned}
& \Re((\alpha \beta) \overline{( \beta - \alpha )} )  \\
& =  \Re( \alpha |\beta|^2  - |\alpha|^2 \beta ) \\
& = \alpha_1 [\beta|^2  - [\alpha|^2 \beta_1  \\
& = \alpha_1( [\beta|^2  - \beta_1 ) \\
& = 0
\end{aligned}

となるので、 \alpha \beta は直線 l と直交することが言えました。

 以上、 w = \alpha \beta であることが証明できました。

必要性の証明

  w = \alpha \beta なら \alpha, \beta が円周上にあることを証明します。

  w = \alpha \beta のとき

\begin{aligned}
& \Im((\alpha \beta- \alpha) \overline{( \beta - \alpha )} )  = 0\\
& \Re((\alpha \beta) \overline{( \beta - \alpha )} )  = 0 \\
\end{aligned}

であるので、

\begin{aligned}
&  \alpha_2(|\beta|^2 - \beta_1) + \beta_2(\alpha_1 - | \alpha|^2)  = 0  & \cdots(1)\\
&  \alpha_1 [\beta|^2  - [\alpha|^2 \beta_1 = 0 & \cdots (2)\\
\end{aligned}

です。

 式(2)を式(1)に代入して

\begin{aligned}
&  \alpha_2(|\beta|^2 - \alpha_1 \frac{|\beta|^2 }{ |\alpha| ^2}) + \beta_2(\alpha_1 - | \alpha|^2)  = 0 \\
\end{aligned}

 分母を払って

\begin{aligned}
&  \alpha_2( |\alpha|^2  |\beta|^2 - \alpha_1|\beta|^2 )  \\
&+ \beta_2 |\alpha|^2 (\alpha_1 - | \alpha|^2)  = 0 \\
\end{aligned}

 共通項でくくって

\begin{aligned}
& ( \alpha_2 |\beta|^2 -\beta_2 |\alpha|^2  ) ( |\alpha|^2   - \alpha_1 ) =0 \\
 \end{aligned}

 ここでもし

\begin{aligned}
&  \alpha_2 |\beta|^2 -\beta_2 |\alpha|^2   =0  & \cdots (3)\\
 \end{aligned}

であるとすると、式(2)を代入して

\begin{aligned}
&  \alpha_2 \beta_1 -\beta_2 \alpha_1   =0 \\
 \end{aligned}

が成り立ちますが、これはすなわち

\Im(\alpha \overline{\beta}) = 0

であり、 \alpha \beta は、これらをベクトルとして見た時、平行になっています。

 言い換えると、0と \alpha \beta が複素平面上で同一直線上にあるということなので、ある実数 C \ne 0 が存在して、

\beta = C \alpha

が成り立ちます。これを式(2)および式(3)に代入して

\begin {aligned}
& C^2 \alpha_1 | \alpha|^2 - C  \alpha_1 | \alpha|^2 = 0 \\
& C^2 \alpha_2 | \alpha|^2 - C  \alpha_2 | \alpha|^2 = 0
\end{aligned}

C \ne 0 \alpha \ne 0 なので、 C |\alpha | で割って、

\begin {aligned}
&  \alpha_1( C - 1)   = 0 \\
&  \alpha_2 (C-1) = 0
\end{aligned}

  \alpha \ne 0 なので、 \alpha_1 \alpha_2 の少なくとも一方は0ではありません。したがって、 C = 1 であり、 \alpha = \beta となります。

 これは設問の前提条件 \alpha \ne \beta に反するので、式(3)は成り立ちません。したがって、

|\alpha |^2 -\alpha_1 = 0

が成り立ちます。これを式(2)に代入して、

|\beta |^2 -\beta_1 = 0

を得ます。すなわち、必要性が証明できました。

解法のポイント

ポイントを押さえれば、「解ける!解けるぞ!!」(klimkinによるPixabayからの画像)

 ポイントは、複素平面上での「直交」とか「直線上にある」といった条件を、どのようにして複素数の代数的表現に置き換えるか、です。本稿で示した内容は、時々出番がありますので、導出方法を覚えておきましょう。

 逆にこれを理解しておけば、複素平面物を恐れる必要はありません。あとは問題集をどんどん解いて、パターンに慣れておきましょう。

東大2000年

Posted by mine_kikaku