2023年3月5日
2000年東大 数学 第2問 は、ミレニアムの年に東大が贈る複素数の問題です。複素平面に図形を絡ませてきています。問題文は以下の通りです。
複素数平面上の原点以外の相異なる2点 P(α),Q(β) を考える。P(α),Q(β) を通る直線を l 、原点から l に引いた垂線と l の交点を R(w) とする。ただし、複素数 γ が表す点 C を C(γ) とかく。このとき、「 w=αβ であるための必要十分条件は、 P(α),Q(β) が中心 A(21) 、半径 21 の円周上にあることである。」を示せ。
問題文では、複素数の複素平面上の表記を、複素数それ自体とは別の実態として記述していますが、ちょっと煩雑なので、本稿では複素数それ自体の表記( α,β )に統一します。
複素数の幾何学的意味に関する準備
複素数って数なのに、幾何学的な概念も持ち合わせているところがやっかいです。円だけならまだしも、直交しているとか、すぐにはイメージがわきません。ここで改めて、本問に登場する複素数の幾何学的性質「複素数 w=u+iv が直線 l 上にある」と、「 w が l と直交する」の代数的意味合いを再確認します。
「複素数 w が直線 l 上にある」の意味
考え方はベクトルと同じです。l が α,β を通る直線なので、 w が l 上にあるということは、 w−α と β−α が平行であるということです。
2つの複素数が平行であるとは、それらをベクトルとして見た時、傾きが同じと言うことですから、実部と虚部の比が同じであるということです。
したがって、「複素数 w が直線 l 上にある」の代数的表記は
ℜ(w−α)ℑ(β−α)=ℑ(w−α)ℜ(β−α) です。ここに ℜ(w) は w の実部を、 ℑ(w) は w の虚部を、それぞれ表します。複素数の実部、虚部をドイツの飾り文字で表記するのは、大学に行くと出てきますが、なかなか厨二心をくすぐってくれます。
上記の式は、以下のように変形できます。
ℑ((w−α)(β−α))=0 すなわち、 w−α と β−α が平行であることと、 (w−α)(β−α) が実数であることは、同値です。
「 w が l と直交する」の意味
w が β−α と直交するので、それらの内積が0になりますが、これを代数的に表記すると
ℜ(w(β−α))=0 です。すなわち、 w が β−α と直交することと、 w(β−α) が純虚数であることは、同値です。
十分性の証明
複素数 α,β が円周上にあるなら w=αβ であることを証明するほうが簡単そうなので、まずこちら方向から取り掛かります。
はじめに、記号を準備します。
α1=ℜ(α)α2=ℑ(α)β1=ℜ(β)β2=ℑ(β) と置きます。 α,β は中心 21 、半径 21 の円周上にあるので、
∣∣α−21∣∣=21∣∣β−21∣∣=21 が成り立ちます。両辺を2乗して定数項を左辺に移行すると、
∣α∣2−α1=0∣β∣2−β1=0 となります。
このとき、
ℑ((αβ−α)(β−α))=ℑ(α∣β∣2−αβ−∣α∣2β+∣α∣2)=α2[β∣2+α1β2−α2β1−[α∣2β2=α2(∣β∣2−β1)+β2(α1−∣α∣2)=0 なので、 αβ−α と β−α は複素平面上で平行であり、 αβ は直線 l 上にあることが言えました。
また、
ℜ((αβ)(β−α))=ℜ(α∣β∣2−∣α∣2β)=α1[β∣2−[α∣2β1=α1([β∣2−β1)=0 となるので、αβ は直線 l と直交することが言えました。
以上、 w=αβ であることが証明できました。
必要性の証明
w=αβ なら α,β が円周上にあることを証明します。
w=αβ のとき
ℑ((αβ−α)(β−α))=0ℜ((αβ)(β−α))=0 であるので、
α2(∣β∣2−β1)+β2(α1−∣α∣2)=0α1[β∣2−[α∣2β1=0⋯(1)⋯(2) です。
式(2)を式(1)に代入して
α2(∣β∣2−α1∣α∣2∣β∣2)+β2(α1−∣α∣2)=0 分母を払って
α2(∣α∣2∣β∣2−α1∣β∣2)+β2∣α∣2(α1−∣α∣2)=0 共通項でくくって
(α2∣β∣2−β2∣α∣2)(∣α∣2−α1)=0 ここでもし
α2∣β∣2−β2∣α∣2=0⋯(3) であるとすると、式(2)を代入して
α2β1−β2α1=0 が成り立ちますが、これはすなわち
ℑ(αβ)=0 であり、 α と β は、これらをベクトルとして見た時、平行になっています。
言い換えると、0とα と β が複素平面上で同一直線上にあるということなので、ある実数 C=0 が存在して、
が成り立ちます。これを式(2)および式(3)に代入して
C2α1∣α∣2−Cα1∣α∣2=0C2α2∣α∣2−Cα2∣α∣2=0 C=0 、 α=0 なので、 C∣α∣ で割って、
α1(C−1)=0α2(C−1)=0 α=0 なので、 α1 と α2 の少なくとも一方は0ではありません。したがって、 C=1 であり、 α=β となります。
これは設問の前提条件 α=β に反するので、式(3)は成り立ちません。したがって、
∣α∣2−α1=0 が成り立ちます。これを式(2)に代入して、
∣β∣2−β1=0 を得ます。すなわち、必要性が証明できました。
解法のポイント
ポイントを押さえれば、「解ける!解けるぞ!!」(klimkinによるPixabayからの画像) ポイントは、複素平面上での「直交」とか「直線上にある」といった条件を、どのようにして複素数の代数的表現に置き換えるか、です。本稿で示した内容は、時々出番がありますので、導出方法を覚えておきましょう。
逆にこれを理解しておけば、複素平面物を恐れる必要はありません。あとは問題集をどんどん解いて、パターンに慣れておきましょう。