体積積分のブービートラップ – 2022年東大 数学 第5問
発展-定積分の定義について
高校の積分の定義は原始関数
高校のカリキュラムにおいて積分は、「微分したらその関数になる関数」すなわち、原始関数と定義されています。
これはこれでわかりやすい定義ですし、微分と積分が表裏一体の関係にあることを端的に表現できていて、応用的にも十分なのですが、この定義から積分と面積の関係を導出しようとすると、本稿で示したようにちょっと苦しいところが出てきます。
それもさることながら、教科書では曲線とx軸で挟まれた領域に対する面積の定義がまったくないまま、「在りて在るもの」として突然登場します。数学なのにそんなことでいいのか?ここは潔く、「曲線の原始関数が面積だ!」と言いきってしまえば良いのにとも思いますが、そこまで割り切るには何らかの躊躇があったのでしょう。
リーマン和
実は積分には、面積にフィーチャーした別の定義が在ります。実数 a,b は a < b であるとします。次に、閉区間 [a,b] を以下のように、 n 個に分割し、それを \Delta と呼ぶことにします。
a= a_0 < a_1 < a_2 < \cdots < a_n=b
また、分割した各区間の長さを \Delta_i 、それらの最大値を | \Delta | と表記します。すなわち、
\Delta_i = a_i -a_{i-1} \\ | \Delta | = \max_{1 \leqq i \leqq n } \Delta_i
です。
さらに、実数 \xi_i \in [a_{i-1},a_i ] を任意に選びます(要は、 a_{i-1} \leqq \xi_i \leqq a_i であれば何でも良い)。
このとき、区間 [a,b] 上の有界関数 f(x) において、以下の和を定義します。
I (\Delta,\{ \xi_i \},f)= \sum_{i=1}^nf(\xi_i)\Delta_i
この和をリーマン和と呼びます。
定積分と面積
このリーマン和が、 \Delta および \{ \xi_i \} をどのように選んでも、 | \Delta | \to 0 のときに1つの値に収束するとき、それを関数 f(x) の定積分と定義します。すなわち、
\int_a^b f(x)dx := \lim_{| \Delta | \to 0} I(\Delta,\{ \xi_i \},f)
です。
特に、区間 [a,b] において f(x) \geqq 0 のとき、リーマン和は高さ f(\xi_i) 、幅 \Delta_i の長方形の面積の和です。そこでリーマン和が収束するとき、その値を関数 y = f(x) のグラフとx 軸に挟まれた領域の面積と定義します。グラフの刻みを細かくしていくと、出来た短冊の集まりの極限が面積になり、それを定積分と定義するんだというのは、感覚的にわかりやすいとおもいます。
あとは、リーマン和は本当に収束するのかという根本的な疑問が残りますが、 f(x) が区間 [a,b] 上で連続ならば、収束することがわかっています。ただし、その証明には有界閉区間のコンパクト性という、大学で出てくる数学が必要になります。
面積ベースの積分定義は積分挟み撃ち的発想に役立つ
このため、高校数学ではリーマン和などという煩雑なものを持ち出していないのだと思いますが、このネタをここまでくどくどと引っ張ったのは、リーマン和の極限を取るという考え方が、区分求積法や積分挟み撃ちの手法に非常によく似ているからです(積分の定義がそういうものなので、ある意味当然ですが)。
積分が細かくスライスした短冊の集まりだという感覚を持っておくことで、積分挟み撃ちを活用した解法を、よりスムーズに発想できるようになります。本問のように積分の刻み幅に関するトラップがあっても、回避できる可能性が高まるでしょう。面積ベースの積分の定義も、ぜひ覚えておくようにしてください。
解法のポイント
本問は回転体の体積問題のバリエーションであり、断面積の式が求められれば、それを積分することで答えが得られるはずですが、積分する変数の増加量と求積する図形の高さの増加量が一致していないことに気づかないと、本稿に示したような誤りに陥ってしまいます。
これを避けるもっとも簡単な方法は、積分変数と図形の高さが一致するように変数を選ぶことで、本問の場合は PQ の中点 M の z 座標を選択することです。ググってヒットする本問の解法は大抵、この手法を採っています。
そうは言っても、起点となる点 P の座標をパラメータにしたいのが人情です。よって、その様にパラメータを選択した場合は、積分対象の断面が起点を通っているかどうかに注意し、そうなっていない場合は、変数の増分と高さの増分が一致しているかどうか、必ず確認するようにしてください。