整式が素数になる条件 – 2024年東大 数学 第6問
2024年東大 数学 第6問 は整数係数の3次式に整数を代入したときに、それが素数になる条件を求めるものです。問題文は以下のとおりです。
2以上の整数で,1とそれ自身以外に正の約数を持たない数を素数という.以下の問いに答えよ.
(1) f(x)=x^3+10x^2+20x とする. f(n) が素数となるような整数 n をすべて求めよ.
(2) a , b を整数の定数とし, g(x)=x^3+ax^2+bx とする. g(n) が素数となるような整数 n の個数は3個以下であることを示せ.
わざわざ素数の定義を示しているのは、ときどき1が素数かどうかで議論になるからでしょうか。
素数が無限にある以上、題意を満たす整数 n は無限にありそうな気がしますが、きっとそんなことはないはずです。何となくヤバげな雰囲気もありますが、(1) くらいは何とかなるかもしれません。とりあえず見ていきましょう。
2024年東大 数学 第6問 小問1の解法
まず、 f(x) = x(x^2+10x+20) と因数分解できることに着目します。これはすなわち、 f(n) は複数の整数の積で表されるということですから、 f(n) が素数になる条件はぐっと絞り込まれます。これはなんか行けそうな気がしてきました。
h(x) = x^2+10x +20 と置きます。すると、 f(n) = nh(n) が素数になる必要十分条件は、 以下の4条件のいずれか(複数可)が成り立つことです。
項番 | n | h(n) |
---|---|---|
条件1 | 1 | 素数 |
条件2 | -1 | -素数 |
条件3 | 素数 | 1 |
条件4 | -素数 | -1 |
負の場合があり得ることに注意しましょう。
以下、各条件が成り立つかどうかを確認していきます。
条件1
h(1) = 31 は素数なので、条件1は成り立ちます。
条件2
h(-1) = 9 ですが、9 は-素数ではないので条件2は成り立ちません。
条件3
二次方程式 h(x) = 1 の解は整数にならないので、条件3は成り立ちません。
条件4
二次方程式 h(x) = -1 の解は x = -3,-7 であり、 3 も 7 も素数なので、条件4は成り立ちます。
以上、条件1と条件4が成り立つので、 f(n) が素数になる n は存在して、それらは 1,-3,-7 であることがわかりました。
2024年東大 数学 第6問 小問2の解法
証明方針
小問1により、n の個数が3個の場合はあり得ることがわかったので、整数 a,b をどのように選んでも g(n) が素数になる n は4個以上存在しないことが証明できれば十分です。
e(x) = x^2+ax +b と置きます。すると、 g(n) = ne(n) が素数になる必要十分条件は小問1の場合と同様、 以下の4条件のいずれか(複数可)が成り立つことです。
項番 | n | e(n) |
---|---|---|
条件1 | 1 | 素数 |
条件2 | -1 | -素数 |
条件3 | 素数 | 1 |
条件4 | -素数 | -1 |
これらの条件をどのように組み合わせても n の個数が4個以上にならないことを証明できれば良いので、 n の個数が4個以上であるための必要条件をこれら4条件の組み合わせで表現し、それが成り立たないことを証明することにします。
まず、各条件が成り立つときの n の個数を明らかにしておきます。
条件1および条件2の場合は、明らかに1個です。
条件3および条件4の場合は、 e(x) は二次式なので、 n の個数は高々2個です(1個の場合もあり得る)。
これらの条件の組み合わせの中から n の個数が4個以上になるものを探せばよいのですが、それは以下の2つに集約されます。このいずれかが成り立つことが、 n の個数が4個以上であるための必要条件です。
条件 | 詳細 |
---|---|
条件A | 条件1 & 条件2 & (条件3 or 条件4) |
条件B | 条件3 & 条件4 |
これ以外の条件は下表のように、上記条件に包含される(=上記2条件のいずれかの十分条件)か、 n の個数が3個以下になるかのいずれかです。
条件の組み合わせ | 判定 |
---|---|
条件1 & 条件2 & 条件3 & 条件4 | 条件Aまたは条件Bに包含 |
条件1 & 条件2 & 条件3 | 条件Aに包含 |
条件1 & 条件2 & 条件4 | 条件Aに包含 |
条件1 & 条件3 & 条件4 | 条件Bに包含 |
条件2 & 条件3 & 条件4 | 条件Bに包含 |
条件3 & 条件4 | 条件B |
条件3 & 条件4 以外の2条件の組み合わせ | n の個数が3個以下 |
1条件のみ | n の個数が2個以下 |
以上のように、 n の個数が4個以上であるための必要条件は条件Aまたは条件Bが成り立つことです。その対偶をとることにより、条件Aと条件Bの両方が成り立たないなら、n の個数はが4個以上にならないことがわかります。
以下、条件Aと条件Bの両方が成り立たないことを証明していきます。
条件Aの検証
まず条件Aを検証します。
条件1と条件2が同時に成り立つことがない、と言えればこのケースを考える必要がなくなるのですが、残念ながらそれは甘くて、適当な素数 p,q が存在して
\left \{ \begin{aligned} e(1) & = 1+ a+ b = p \\ e(-1) &= 1 -a+ b = -q \end{aligned} \right.
であったとすると、
\left \{ \begin{aligned} a &= \frac{p+q} 2\\ b &= \frac{p-q} 2 -1 \end{aligned} \right . \cdots(1)
です。 a,b は整数なので p,q の偶奇が一致する必要があります。
逆に任意の素数 p,q の偶奇が一致するとき、整数 a,b を(1) で定義すると e(1)=p,e(-1)=-q が成り立ちます。たとえば p=5, q=7 のとき、 e(x) = x^2+6x-2 において e(1)=5 、 e(-1) = -7 であり、 g(x)=xe(x) は条件1と条件2の双方を満たします。
すなわち、条件1 & 条件2 が成り立つための必要十分条件は、整数 a,b が偶奇が一致する2つの素数 p,q によって (1) のように表現できることです。
次に条件1 & 条件2 が成り立つとき、条件3が成り立つかどうかを確認します。
上で確認したように、条件1 & 条件2が成り立つとき、偶奇が一致する素数 p,q が存在して g(x) = x^3 +\displaystyle\frac{p+q}2 x^2 +\displaystyle \left ( \frac{p-q}2 -1 \right ) x ですが、 e(x) = x^2 +\displaystyle\frac{p+q}2 x +\displaystyle \frac{p-q}2 -1 は x > 0 の範囲で単調増加であり、かつ p は素数なので e(1) = p > 1 です。すなわち e(n) =1 を満たす正の整数 n は存在せず、したがってそのような素数も存在しません。
これは条件1 & 条件2を満たすすべての g(x) = xe(x) に対して成り立つので、条件1 & 条件2 が成り立つとき条件3は成り立ちません。
引き続いて、条件1 & 条件2 が成り立つとき条件4が成り立つかどうかを確認します。
e(x) = -1 の2つの解を α、β ( α < β ) とおくとき、
\alpha < -\frac{ p+q}2 < \beta
ですが、 p も q も素数なので2以上です。よって
-\frac{p+q}2 < -1
です。
一方、 e(-1) = –q < -1 、 e(1) = p > 0 > -1 なので、
-1 < \beta < 1
であり、
\alpha < -\frac{p+q}2 < -1 < \beta < 1
が成り立ちます。
ここでもし α、β の両方が整数であったとすると、 β = 0 でなければなりません。 β = 0 ということは e(0) = -1 が成り立つということなので、
e(0) = \frac{p-q}2 -1 = -1
であり、したがって p = q です。
このとき、
e(x) = x^2+ px -1
であり、 e(x) = -1 の 0 で無い方の解 α は α = –p です。
すなわち、条件1 & 条件2 & 条件4 が成り立つとき、ある素数 p が存在して
g(x) = x^3+px^2-x
が成り立ち、 g(n) が素数となる整数 n は 1,-1,-p の3個あります。
条件Aが一部でも成り立つことは想定外でしたが、よく考えてみると条件1 & 条件2 & 条件4は n の個数が3個なのですから、 n が4個以上あるための必要条件であるわけがありません。
つまり条件Aは条件1 & 条件2 & 条件3であり、これが成り立たないことはすでに確認済みです。
条件Bの検証
次に条件Bの検証です。
条件Bは条件3 & 条件4なので、もしこれが成り立つとすると、ある素数 p,q が存在して
\left \{ \begin{aligned} e(p) &=p^2 +ap+ b=1 \\ e(-q) & = q^2 -aq +b =-1 \end{aligned} \right .
が成り立ちます。
整数に関する問題でこういう連立方程式が出てきたときは、辺々を足したり引いたりして、 p,q で因数分解できる形に持っていくことを考えましょう。
式の辺々を足すと正体不明の整数 b が定数として残ってしまうので、式の辺々を引いてみましょう。すると
p^2 - q^2 +a(p+q) = 2
ですが、これの左辺を因数分解して
(p+q)(p-q+a)=2
を得ます。
p+q も p-q+a も整数でかつ、 p+q > 0 なので、 p+q =1 か p+q =2 のいずれかが成り立つ必要があります。
ところが、 p,q はいずれも素数なので、 p+q > 2 です。これは矛盾なので、条件Bは成り立たないことが証明できました。
以上、条件Aも条件Bも成り立たないことが示せましたので、整数 a,b をどのように選んでも g(n) が素数になる n は4個以上存在しないことが証明できました。
解法のポイント
多項式に整数や素数が絡む問題が出てきたときは、まず多項式を因数分解して、多項式の積=整数の形に持っていきましょう。このように式を変形すると、左辺の各因数多項式が右辺の整数の約数のどれかに等しいということが言えるので、問題を解く突破口になります。オーソドックスな手法なので、是非覚えておくようにしましょう。