魔の絶対値地獄難問 – 1994年東大 数学 第6問

符号反転パターンの組み合わせが大変(wal_172619によるPixabayからの画像)

2024年10月17日

必要性の表明

 必要条件「 d(O, P) = d(P, Q) となるような a ≧ 0 が存在するならば、 P は図6のエリアに存在する」の対偶は、「P は図6のエリアに存在しないならば、 d(O, P) = d(P, Q) となるような a ≧ 0 は存在しない」なので、これを証明します。

 図6のエリア以外を以下の図8のように4つに分割します。

図8

 各エリアの定義は以下の通りです。

\begin{aligned}
 & \text{エリア➀}   : \{(x,y) \in \mathbb{R}^2 | y < 0 \} \\
 & \text{エリア②}   : \{(x,y) \in \mathbb{R}^2 | x  < 0 \text{かつ} 0 \leqq y <\frac{1}2  \} \\
 & \text{エリア③}   :  \\
 &\{(x,y) \in \mathbb{R}^2 | 0 \leqq x < \frac{1}2   \text{かつ}  \\
 & \text{      }0 \leqq y < \frac{x^2-x+1}2 \} \\
 & \text{エリア④}   : \{(x,y) \in \mathbb{R}^2 |  \frac{1}{2} \leqq  x   \text{かつ}  0 \leqq y < \frac{3}8 \} \\
\end{aligned}

P ∈エリア①のとき

\begin{aligned}
d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & = |x| -y\\
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q})  &=  |x-a|+ a^2+1 -y \\
\end{aligned}

なので

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & =   |x-a| -|x|+ a^2+1  \\
\end{aligned}

であり、 x < 0 のとき任意の a ≧ 0 に対して

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & =   a-x+x+ a^2+1  \\
 & = a^2+a+1 > 0
\end{aligned}

です。

 一方 0 ≦ x のとき、 x < a である a に対して

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & =   a-x -x+ a^2+1  \\
 & = a^2+a+1 -2x  \\
& > a^2+a+1 -2a \\
& = a^2-a+1  > 0
\end{aligned}

ax である a に対して

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & =   x- a -x+ a^2+1  \\
 & = a^2-a+1 > 0
\end{aligned}

であり、 d(O, P) = d(P, Q) となるような a ≧ 0 は存在しません。

P ∈エリア②のとき

\begin{aligned}
d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & = -x +y\\
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q})  &=  a-x+ a^2+1 -y \\
\end{aligned}

なので任意の a ≧ 0 に対して

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & =   a^2+a+1  -2y \\
  &> a^2+a \geqq 0
\end{aligned}

であり、 d(O, P) = d(P, Q) となるような a ≧ 0 は存在しません。

P ∈エリア③のとき

\begin{aligned}
d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & = x +y\\
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q})  &=  |x-a|+ a^2+1 -y \\
\end{aligned}

なので

\begin{aligned}
 & d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} )  \\
& =   |x-a| + a^2+1 -x -2y  \\
\end{aligned}

であり、 x < a である a に対して

\begin{aligned}
 &d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) \\
 & =   a-x + a^2+1 -x -2y  \\
  & = a^2+a+1 -2x-2y \\
  & > a^2+a+1 -2x -x^2+x-1 \\
 & = a^2 - x^2 +a-x \\
 & = (a-x)(a+x+1) >0
\end{aligned}

です。

 また、 xa である a に対して

\begin{aligned}
 & d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} )  \\
& =  x-a + a^2+1 -x -2y  \\
  & = a^2-a+1 -2y \\
  & > a^2-a+1  -x^2+x-1 \\
 & = a^2 - x^2 -a+x \\
 & = (a-x)(a+x-1)
\end{aligned}

ですが、  a \leqq x < \displaystyle\frac{1}2 なので a+x-1 < 0 であり、したがって

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) > 0
\end{aligned}

です。

P ∈エリア④のとき

\begin{aligned}
d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & = x +y\\
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q})  &=  |x-a|+ a^2+1 -y \\
\end{aligned}

なので

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} ) & =   |x-a| + a^2+1 -x -2y  \\
  & >  |x-a| + a^2+\frac{1}4 -x 
\end{aligned}

であり、 x < a である a に対して

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} )   & >  a-x + a^2+\frac{1}4 -x  \\
 & = a^2 +a+\frac{1}4 -2x \\
 & > a^2 +a+\frac{1}4 -2a \\ 
 & = (a- \frac{1}2)^2 \geqq0
\end{aligned}

です。

 また、 xa である a に対して

\begin{aligned}
d(  \mathrm{P} ,\mathrm{Q}) -d( \mathrm{O}, \mathrm{P} )   & > x -a + a^2+\frac{1}4 -x  \\
 & = a^2 -a+\frac{1}4  \\
 
 & = (a- \frac{1}2)^2 \geqq0
\end{aligned}

です。

 ゆえにP は図6のエリアに存在しないならば、 d(O, P) = d(P, Q) となるような a ≧ 0 は存在しないことが証明できました。

 以上、問題文の条件 (*) が成り立つ必要十分条件は点 P が図6の領域に存在することであり、それを改めて描画すると図9のとおりです(境界含む)。

図9

東大1994年

Posted by mine_kikaku