鬼の極難マフィン問題 – 2023年東大 数学 第6問

型からはみ出た部分が特にヤバイ(Gundula VogelによるPixabayからの画像)

2023年3月15日

 2023年東大 数学 第6問 は図形の問題ですが、このジャンルでは最も難しいものの一つに数えられるでしょう。問題文は以下のとおりです。

 Oを原点とする座標空間において、不等式 |x| \leqq 1, |y| \leqq 1, |z| \leqq 1 の表す立方体を考える。その立方体の表面のうち、 x < 1 を満たす部分をSとする。
 以下、座標空間内の2点 A,B が一致するとき、線分 AB は点 A を表すものとし、その長さを0と定める。

(1) 座標空間内の点 P が次の条件 (i)、(ii) をともに満たすとき、点 P の動きうる範囲 V の体積を求めよ。
 (i) \mathrm{OP} \leqq \sqrt3
 (ii) 線分 OP と S は、共有点を持たないか、点 P のみを共有点に持つ。

(2) 座標空間内の点 N と点 P が次の条件 (iii)、(iv)、(v) をすべて満たすとき、点 P の動きうる範囲 W の体積を求めよ。必要ならば、 \sin \alpha = \displaystyle\frac 1{ \sqrt{3}} を満たす実数 \alpha \displaystyle\left( 0 < \alpha < \displaystyle\frac{\pi}2 \right ) を用いてよい。
 (iii) \mathrm{ON + NP} \leqq \sqrt3
 (ii) 線分 ON と S は共有点を持たない。
 (ii) 線分 NP と S は、共有点を持たないか、点 P のみを共有点に持つ。

 なぜマフィンなのかは、おいおい明らかになります。

 問題文が少々くどいですが、東大ではよくあることなので、これだけで危険を察知することは難しいでしょう。しかし本問こそが、回答時間を無限に吸い取る恐怖の大王です。

 まんじゅうならぬ「マフィン恐い」な本問。早速見ていきましょう。

小問1の解法

空間図形 V の形状を把握する

 まず、図形 V がどんな形なのかを把握します。

 図形 S というのは、簡単に言うと蓋の空いた立方体です。 V というのは、 S の中央 O に光源を置いたとき、 S に遮られずに O を見通すことが出来、かつ O からの距離が \sqrt 3 以下である点の集合です。

  O と、 S の各頂点の距離が \sqrt 3 なので、S の内部はすべて V に含まれることがわかります。

 あとは、 S の蓋の空いた上方に、どれくらい張り出しているかですが、 O からの距離が \sqrt 3 以下という条件があるので、半径 \sqrt 3 の球面が乗った形となります。四角い型で作ったマフィンのような形状です(図1)。

図1

 また、球面は S の側面を超えて外側に張り出しますが、そのオーバーハングは45°となります(図2)。

図2

V をコーン部分と箱部分に分解する

 ここで、 V を球面から O までの四角錐っぽい図形(コーンと名づけます)と、それを取り去った残りの箱部分に分解します(図3)。

図3

 箱部分の体積は容易に求めることが出来て、

2^3 - 2^2 \times1 \div 3 = \frac {20}3

です。

コーン部分の体積を求める

 残りはコーン部分の体積です。最初は極座標変換で容易に積分できるかと思ったのですが、思ったより難しかったので断念しました。もっと楽な方法を模索します。

 ヒントを探るため、コーンを含む球面全体を上から見たところを、図示してみました(図4)。簡単に計算できそうな気もしますが、やはり思いつきません。そこで、コーン部分の底面である非ユークリッド的正方形の外側に在る、非ユークリッド的三角形を底とするコーンなら計算できるかと考え、どんな形か確認するため、これが正面に来るように球面を回転させます(図4の赤や紫の部分)。

図4

 ここで驚くべきことに、それらの非ユークリッド三角形は、立方体の別の面を開口してできる非ユークリッド正方形の一部であることがわかりました(図5)。

図5

 ここから、球面は6つの非ユークリッド正方形で分割されることがわかります。実際、球面上の任意の点 P と O を結ぶとき、線分 OP は立方体のいすれか一つの面と交点を持つか、辺のいずれかと交点を持つかの、いずれかなので、球面は中心 O を光源として、立方体の各面が球面に投影されてできる6つの非ユークリッド正方形に、重複なく分割されます。

図6

 したがって、球体は、立方体の各面をそれぞれ開口してできる6つのコーンに分割され、しかもそれらのコーンの体積はすべて同じなので、1つのコーンの体積は球体の体積の \frac{1}6 となります。

 その値は

\frac1{6} \cdot \frac{4}3  3 \sqrt 3 \pi  = \frac{2 \sqrt{3}  \pi}{3}

なので、 V の体積は

 \frac{2 \sqrt{3}  \pi}{3} + \frac{20}3

です。

東大2023年

Posted by mine_kikaku